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 昨夜、山盛り作った唐揚げは腹ペコ宣言通り瑛士によってぺろりと平らげられた。  僕と母さんの食べるスピードの倍速で、美味しそうに食べる瑛士に驚きつつも作ったかいがあったと喜んでいたら、危うく父さんの分がなくなるところだった。  一生懸命働いてくれているのに帰ってきてご飯がないとかかわいそうすぎる。  体育会系高校生男子の胃袋、恐るべし。  結局僕の二倍は食べたであろう瑛士から、辛うじて死守した唐揚げを父さんにあげ、ついでに今朝お弁当箱にも詰めて持ってきた。  つまり今日のお昼は唐揚げ弁当だ。  昼休み。  一緒に食べようと瑛士に声を掛けると珍しく断られてしまった。  入部早々バスケ部から呼び出しがかかっているらしい。  何やら熱血キャプテンが居るんだとか。  ますます僕には向かない気がする。  先輩からの呼び出しなら仕方ないかとお弁当箱を一つ差し出すと、「ごめんな、サンキュ」と言い置いて申し訳なさそうに出かけていった。  しょうがないから一人で食べるかと教室を振り返ると、何やらあちこちから視線を感じる。  そういえば瑛士が居ない教室に一人でいるのは入学以来初めてかもしれない。  なんだか居心地が悪い気がして、落ち着いてお弁当を食べられそうな場所を求めて廊下に出る。  普段行かない所に行けばやたらと見られることもないか。  いつもは素通りするだけの階段に足をかけ上を目指す。  階段を上がった先は上級生の教室。  学年によってネクタイカラーが違うので一目でわかる。  足元ばっかり見ている僕がその事に気付いたのは、上履きの爪先の色も違うからだけど。  赤い色がたくさん通る階を足早に通り過ぎると、人通りがなくなってやっと少し気が抜ける。  行き止まりにある扉を押すと、開けた空間といつもより近い青空が目の前に広がった。  ――屋上、鍵かかってないんだな。  中学校の屋上は立ち入り禁止になっていた。  危ないからなのか普段は立ち入ることは出来ず、理科の授業で数回行ったことがある程度。  百葉箱かなんか見に行ったような?  太陽の観察だったっけ?  曖昧な記憶をたどっても、三年も通ったのに片手に余る程度しか思い出せない。  端まで行き、フェンス越しに見下ろすと校庭が見えた。  広い校庭はバスケットはもちろん、野球もサッカーもし放題だろう。  僕はどれもこれも苦手だけど。  高い空を仰ぎ見ながら左手をフェンスに添えて歩くと、ガシャガシャと耳障りな音が響く。  耳障りなはずなのに、手に弾むフェンスの感触が楽しくて、そのままガシャガシャと音を立てながら歩いていく。  屋上を半周ほど歩き、入ってきた扉のちょうど裏側にあたる壁の後ろに腰を下ろす。  入口から死角になってるから、万が一誰か来ても僕には気付かないかもしれない。  もしかしてこれは絶好のスポットを見つけたんじゃないだろうか。  早速お弁当箱を取り出し、青空の下一人で手を合わせ「いただきます」をする。  昨日と同じメニューなのに、外で食べると三割り増しで美味しくなって得した気分だ。  ――絶好のスポットを見つけた僕は完全に油断していた。  人目はないし、ごはんもおいしい。  今日は良い日だな、なんて呑気に考えて。 「あれ? 人が居る…」  ギクッとして振り向いた瞬間、風に煽られて目の前の帳がはためいた。

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