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✡。:*Xmas Special Short Story*:。✡
「柚、来週の練習試合勝つからお祝いの準備しておいて」
ついこの間まで暑さと戦っていたはずなのに、気付いたら今年の終わりまで後半月。
夏が暑いと冬も寒い、なんて誰に聞いたのかも覚えてないけれど、暑かった夏を思い返すとまだまだ寒くなるんだろうなと思う。
冬休み直前のある日。
高校受験のための勉強で苦手な数学と戦っていた僕に、瑛士が突然言い出した。
「勝つから、って…相手弱いの?」
同じ受験生だというのに、息抜きでバスケの練習試合ができてしまう程余裕のある瑛士。
勝つのが分かりきった相手との練習試合で、合格圏内ギリギリの僕にわざわざお祝いを用意しろって言うのか?
「いや、県大会優勝常連校」
「はぁ!?」
「勝つからお祝い作れよ」
いや、それはもちろん勝てたならお祝い位するけどさ。
「なんで、勝つ前提だし命令口調なんだよ…」
「俺が勝つ気でやって負けるわけないだろ?」
呆れてものが言えないとはこのことだ。
根拠の無い俺様発言。
それなのに、何故か本当そうなるんだろうなという妙な信頼感と予感がある。
メニューは任せる、とそのまま予定は決定事項にされてしまった。
翌週。
大事な受験勉強の時間を割いて、丸一日かけて料理を仕込んだ僕は、久々の趣味の時間に没頭していた。
かなり強引に取り付けられた約束だったけど、たまにはこういう日があった方が案外勉強にも集中できるのかもしれない。
リクエスト通り、メイン料理は肉料理。
前日から酒、塩、醤油、ニンニクで作った特製のタレに漬け込み味を染み込ませたローストチキン。
オーブンでローズマリーと一緒にじっくりと焼けば、余分な脂も落ち皮はパリッと身はしっとり柔らかく出来上がる。
天板の上に一口大に切ったじゃがいもを一緒に乗せておけば、チキンの旨味ととローズマリーの香りが染み込んだ美味しいローストポテトも出来て一石二鳥。
飴色玉葱を煮込んで作った、オニオングラタンスープ。
ロメインレタスにカリカリベーコンのシーザーサラダ、
ガーリックトーストに、トマトとバジルをたっぷりのせたブルスケッタ。
これだけあればいいかな。
一通り下準備を済ませた頃には日も傾き始めていた。
瑛士、帰ってこないな―――
今さら空いた時間に勉強をする気にはならないし、玄関で待っていよう。
コートを引っ掛けて外に出ると、冬の住宅街には人気はなく、なんだか寂しい。
キッチンでずっと火の傍にいたからか、温度差で余計に寒く感じる。
両手を擦り合わせて息を吹き掛け、肩を竦ませて暖を取ろうとしてみるけど暖かいのは一瞬だけ。
それでも何となく外で待って居たくて、何度も繰り返す。
「お前、何してんの?」
そろそろ吐く息だけでは寒さが凌げなくなって来た頃、瑛士は帰って来た。
「―――おかえり」
「何? 待ってたの?」
「うん。 勝てた?」
「当然。 勝つって言ったろ」
呆れたようにいいながら、肩からかけてた鞄を漁り、中から何かを取り出す。
それは綺麗にラッピングされた箱で、それなのに瑛士はビリビリに破いてしまった。
「瑛士?」
ふわっ、と首に暖かさを感じる。
「バカ柚。 受験生がこんなに冷えて。 風邪でも引いたらどーすんだよ」
バカって言われてるのに何故か心も暖かい。
箱から出されたのは赤いチェックのマフラー。
「これ、何?」
「マフラー」
「そうじゃなくて。 何でマフラー?」
「お前、今日が何の日か忘れてるだろ」
「今日?」
俺は料理なんか作れないから勘弁しろよって。
いつもみたいに頭をぐちゃぐちゃに掻き回されて。
「Merry Christmas」
それから、ちょっと遅れたけど。
Happy Birthday Yuzu.
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