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パタン  静かに閉まったドアを見つめながら孝之は幸福感に浸っていた。ハンカチに包まれていることを意識すれば、私が手で覆っているように感じるのが理一だ。手のひらと指に包まれているビジュアルすら容易に映し出せるだろう。  猛るモノを抱えたまま、電話で対応し、来客を迎える。作るように指示したいくつかの文章を練るだろう。キーボードに向かって頭を悩ませ、確認のため多くの書類の束を繰るはずだ。 ……そして  ふとした瞬間に、自分の分身を包んでいる私のハンカチを認識することになる。仕事と欲、相反するものに翻弄されつつ、仕事をこなすに違いない。  私が「命令」したことを遂行することこそが理一の歓びだ。性的快楽を伴うミッションだ。縛り付ける為にロープも紐もいらない。支配するために恐怖や痛みを利用するのはあまりに安易ではないか。精神的な束縛と呪縛、これこそが私の愛の証であり、愛の形。  どんなに強い精神力があったとしても人間は生理現象を抑え込むことはできない。当然理一も。  排泄欲求がどんなに高まっても、ハンカチを自ら外すことは理一にできない。そう、私に懇願するしかないのだ。ギリギリまで我慢を重ね、限界を越えそうになってから私の元を訪れるだろう。粗相をしてハンカチを汚すなど絶対に選択しないのだから。  仕置きの続きは理一次第。どれだけ我慢できるのか、どんな顔で私に縋るのか。  期待感に孝之の身体が熱くなる。孝之はネクタイを結びながらニヤリと口の端で笑った。 「私はやはり、縛られるより、縛るほうが好みだ」  言葉にした思いは実感に姿をかえ孝之の体に染み込んだ。ドアの向こうにいる理一を想う。ドアを見詰める表情は愛情に溢れ微笑を浮かべていた――孝之自身は気がついていない。ドアの向こうの理一が熱っぽく向こうからドアを見つめていることにも。    これが二人の関係であり、愛の形だ。歪んでいる?そんなことはどうでもいい。彼ら二人が望む世界が他と一致する必要はない。二人が臨む高みは特別であり他人の理解は不必要。  そう、二人は満足している。彼らにとってこれは「愛」を確かめる熱く尊い行為なのだから。 END

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