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突然孝之に後ろから抱きしめられ理一の息がとまる。爽やかなオードトワレの香りに包まれ動くことができない。快楽も、刺激も、感情も、全てが孝之に委ねられたことを知り、理一は深い安堵を覚えた。
「あと10分で宮元先生のアポだからね、仕置きはここで中断だ」
まさか……そんな。この状態で取り上げるというのか?このままどうしろと?
理一がそれを言葉にすることはない。そんなことを考えてしまった事すら違反なのだから。
孝之はジャケットのポケットからハンカチをとりだし、理一に見えるように顔の前に掲げた。それはダークグレーのオーダーハンカチで、ストライプの大小を組み合わせたデザイン。ジェントルスクエアと呼ばれる商品でオーダーの証明に、隅にはアールデコスタイルの「T」のロゴが刺繍されている。
定期的に業務の一環として理一が発注し、つねに予備を切らさないように気をつけているハンカチだ。
「このままでは、シミができてしまう。粗相をした秘書を雇う不甲斐ない男だと思われたくない。わかるだろう?」
ええ……わかりすぎるほどに。自分の分身の有様をみれば反論の余地はない。完全に勃起したものに右手を添えられて、背筋がのけぞる。
「ああ!だめ……です」
「このままでは駄目だ。わかっているさ」
孝之は左手でハンカチを一振りして大きく広げると半分にたたみ三角形に変えた。分身の下にあてがい、半分折り返して包みこむ。
孝之のハンカチは理一が望む手や指と同様だ。理一は歯を食いしばって刺激に耐える。デスクに置いた腕と体を支える足はともにプルプルと小刻みに震え、頼りないその姿が孝之を高揚させる。
「ちゃんと包まないといけないね」
何がいけない?いけないことなどない。孝之のすることに間違いはなく、全てを受け入れることこそが理一の歓びだ。
両側の余白部分を表面で結び、さらに裏側にまわして結ぶ。完全にハンカチでくるまれた分身に目をやった理一は膝がカクンと力を失い、孝之にもたれることで何とかデスクから手を離さないでいられた。グイと背中を押され、デスクに俯せになる姿勢を強制される。
「ここが荒れてしまうと私の楽しみが半減してしまう」
孝之はボディーローションを赤く色を変えた理一の臀部に塗りたくった。ツルツルとした質感、そしてメンソールの香りと冷える感覚の清潔さ。自分の痴態とのギャップに理一はコクンと溜まった唾液を飲み込んだ。
孝之はボディーローションを丁寧になじませた。ボディーローションの潤みは肌に光沢をあたえ、柔らかそうな質感に変える。肌だけで私を誘惑するとは悪い子だ……理一。その誘惑に抵抗しきれなかった孝之は五本の指でそっと掴むように肌の感触を味わった。
そのフェザータッチの緩やかな刺激は理一の下半身から完全に力を奪い、もはや体全体をデスクに預けてなんとか基本姿勢であるデスクに手を置くことをキープしている状態だ。
「本当に、宮元先生がきてしまう」
力の抜けた理一の足元にしゃがみこみ、孝之はゆっくりとボクサーショーツを引き上げた。
「あっ」
ハンカチで包まれた分身をショーツの中に納めたあと、孝之は思い切りウエスト部分をひっぱり手を離した。
ピシッ!
ゴムと生地が勢いよくフィットし、ブルリとショーツの中で分身が動いた感触が達してしまいたいという欲求を更に強める。この状態で中断されてしまうという現実に、理一の頬に涙がこぼれた。
結局ボトムも引き上げられ、丁寧にベルトを整えられ、四つん這いで入室したときと変わらない姿にされてしまった。心も、後孔も、なにもかもが引き攣れているというのに。
孝之は満足そうに微笑んだ。
「さて仕事に戻ろう。宮元先生がいらしたらお通しして」
何事もなかったように乱れたデスクの上をテキパキと整え、上司の顔だけになってしまった孝之はデスクに座った。引き出しの中からネクタイをとりだし、どれを身につけようかと物色し始める。
自分だけがこんな状態であることに悲鳴を上げそうになりながら、理一はその姿を見つめる。このまま放置され、この続きを与えられるのかすらわからない。そして質問することは許されていない。
「さあ仕事に戻りなさい。もう手は離して構わないから」
奥歯をかみ締め、渦巻く内面を隠しながら理一は両手を離した。孝之が何か言ってくれることを期待しながら。しかし孝之はネクタイを結ぶ作業に入り、理一の方を見るつもりはないようだ。
理一は一礼して部屋を出る――今度は歩いて。
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