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第1話 出会いの季節

 僕は他人が嫌いだ。  どんなに周りに合わせても、どんなに装っても、どうしようもなく嫌いだ。  だからこそこれまでの人生において友人というものができたことがないし、自分でもそれでいいと思っていた。  何かを期待することほど虚しいものはない。  今考えると、自分の作った心の壁の立派さに少し誇りのようなものを感じていたのかもしれない。  まさに跳ね橋のない城壁のようなその壁を跳び越えてくるものが現れるとは考えもせずに。    季節は春。桜の花びらが舞い落ちる坂道を本を読みながら進んでいく。これから3年間もこの坂道を登るのかと思うと若干嫌気がさしてきたが、そんなことより直近で行われる高校の入学式のほうがよっぽど嫌だった。  一緒に坂道を登るおそらく僕と同じ入学したての希望に満ちた人々の雰囲気が痛々しい。どうせ希望なんてあるはずがないのに。  校門の前で写真を撮ってはしゃぐ人々を忌々しく一瞥した後、事前に通知されていた自分のクラスへと足を運んだ。  教室に入り、指定の席に着くと僕はすぐに読書を始めた。読書というのは便利だ。簡単に周りに話しかけてほしくないという態度を示すことができる。  そうして過ごしていると頭の軽そうな大人が教室に入ってきた。おそらく担任になるであろう教師からの軽い自己紹介があり、入学式のために体育館へと移動することになった。  番号順で廊下に並ぶときはじめて意識して周りの人間を観察した。僕にとっては少なくとも1年間は一緒の空間にいることになる人々であるため、危険人物は今のうちにチェックし、対策を取らなければならないからだ。そうして、ある種敵意のような視線を周りに向けると特別目立った奴が2人程いた。  一人目はまさに自分の前にいる不機嫌そうに列に並んでいる男だった。身長は僕と変わらないくらいだが、髪の色があり得ない色で染め上げられていた。ベースは赤色で他にも青やら金色やら、とにかくたくさんの色のメッシュが入っており、一目で「私はヤバいやつです。馴れ馴れしくしないでください」という雰囲気を醸し出している。こんな目立つ存在なら繁華街など歩いたらハチ公前より人気の待ち合わせスポットになること請け合いである。というか校則違反ではないのだろうか。いやまだ校則は知らないのだが。    もう一人は一番後ろにいる男だ。髪は黒髪の短髪でいかにもスポーツしていますというほどよく筋肉のついた体躯をしていた。さわやかそうな雰囲気通りさわやかな笑顔を周囲に振りまいていた。何より縦に長い。190㎝はあるであろうその身長は新入生の中でも文字通り頭一つ抜けていた。何を食べたらそんなにデカくなれるのかと考えていると迂闊にもその男と目が合ってしまった。  しまった。  慌てて前を向くのも不自然なので、何気なく周囲を見ていた風にごまかして自然に前を向こう、とか考えていたらさわやかな笑顔を返されてしまった。  その瞬間、僕は・・・  この男とは関わらないようにしようと心に決めた。

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