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第16話 芽吹く季節(6)

 シャーーーーー  遠くから聞こえるシャワー音に僕はなぜかそわそわしていた。  きっと勢いで吉野を泊めてしまった為、僕の不可侵のテリトリーに他人がいるという状況に頭の処理が追い付いていないからだろう。  「ふぃ~、シャワーサンキュウな!」  都合のいい自己解釈を考えている間に手早くシャワーを済ませたらしい吉野は濡れた髪をタオルで拭きながら気持ちよさそうに部屋に入ってきた。  パンツ一丁で  「おま、着替えどうしたんだよ」  「ああ、わりぃわりぃ!持ってくの忘れちまってさ」  そういうと吉野はバックの中から学校指定のジャージを取り出して着替え始めた。  しかしまぁ改めてみると無駄にいい体をしている。背は高くすらっとしており腹筋も薄っすらとわれている。背が低くて筋肉が付きにくい僕からしてみれば嫌味でしかないが、これは女子がほっとかないだろうな。    ・・・・・・まぁ僕には関係ないことだけど  吉野は着替え終わるや否やお腹を盛大に鳴らし、少し恥ずかしそうに謝った。  あまり食欲はないが、このまま吉野に餌を与えないと一晩中お腹を鳴らして安眠できないと思い、晩ご飯を食べることになった。  「そういや、染井は普段一人暮らしで何食べてんだ?」  「別に……そこら辺にある適当なものだよ」  「適当ってビニ弁とか?」  「ビニ弁?」  「コンビニ弁当、略してビニ弁!カッコよくね?なんかマラソンしてそうでさ!」  それは駅伝だろ  「まぁ、そんなとこだよ、コンビニ行って適当なおにぎりとかパンとか」  「毎日?」  「毎日……ってか」  なんで僕は他人にこんなに自分のこと話してるんだ  「?どうした?」  「……いやなんでもない、だから買ってこなきゃうちに食べるものなんてない」  「マジか……んーじゃ俺、買ってくるわ!」  「いや、別に無理しなくても出前でも取れば良いし」  「いや!出前だと金かかるしさ!すぐ近くにスーパーあったよな、そこで適当に買ってくるわ!」  「……じゃ僕も」  「いや、染井は病み上がりなんだから寝てろって、大丈夫!すぐ帰ってくっからさ!」  そう言って吉野はカバンから財布だけ取ってさっさと出かけて行ってしまった。  扉が閉まると部屋はいつもの様子に戻った。薄暗く、聞こえるのは外から聞こえるザァザァとした雨音と自分の吐息だけ。  僕だけが存在を許された様な秩序だった空間。  僕の求めた静寂。  しかしなぜだろう、今はこの静寂が酷く肌寒く感じてしまう。  そして同時に、この秩序を壊す他人を待ってしまう。    そんな都合の良い自分を嫌悪しながら僕は深いため息をついて、ベッドに潜り込んだ。

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