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掌編・下

 怪士は、アザミの誘うままに身を乗り出し……べろりと出した舌で、乳首ごとクリームを舐め上げる。 「ああっ、あっ、あっ」  粒がこそげ落ちるのではないかと思われるほど、ちから強く。  けれど、生クリームのぬめりを借りて、繊細に。  男の舌が、アザミのそこを愛撫した。  乳輪ごと、大きな口の中に招き入れられ、ちゅばちゅばと濡れた音を立てながら吸われる。    アザミは喘ぎながら、また指にクリームを掬うと、反対の乳首に載せた。 「怪士……、こっちも吸え」  アザミの命令に、男が欲望にぎらつく瞳を向けてくる。  怪士に散々舐られた赤い乳首は、さながらイチゴのようであった。  唾液でぬらぬらと光るその粒を、怪士が指で摘まむ。  男の舌は反対側の、生クリームを(まぶ)した方へと伸ばされ、両の突起が同時に嬲られた。  左は、太い指で強くこねられ、右は、分厚い舌でねろりとくすぐられる。 「ひっ、あっ、あっ、あっ」  胸の飾りから体の中心にダイレクトに響くような快感が湧き起り、アザミの腰が無意識に揺れた。  アザミは男の頭を抱き寄せ、そのまま胸に押し付けるようにして更なる愛撫をねだった。  快楽で蕩けた視界に、ふと、飲みかけのティーカップが映り込む。    ああ、ここは自室ではなく、相談室だった、と。  アザミは遅まきながらそのことを思い出した。  隣の自室へと場所を移すべきか……。  そう考えたアザミだったが、しかし、熱心に乳首に吸い付いてくる男の双眸に、こらえきれないような欲望の色を見つけて、制止の声を飲み込んだ。  アザミの気が逸れたことを察したのか、怪士が、じゅるっとひと際大きな音を立ててそれを吸った。  男の唇に挟まれた、アザミの乳首が伸びている。  限界まで伸びたそれの先端をちろちろと舐められ、乳輪に歯を立てられた。 「あああっ!」  アザミは背筋を反らせ、さらに胸を突き出す格好になる。  カーブを描く、アザミの腰を男の逞しい腕が抱きしめて……。  更なる快楽を、アザミに与えようとしてきた、……その瞬間。  コンコンコン、と軽やかなノックの音とともに、相談室の扉が開かれ。 「般若さま、マツバです」  と、しばしばここを訪れる男娼のマツバツバキがアザミへと声を掛けながら入ってきた。 「珍しいお菓子をいただいたのでアザミさんもどうかと……って、うわぁっ!」  般若とアザミの名を混ぜこぜに呼ぶ癖のあるマツバが、言葉の途中で、まさに濡れ場の最中であったアザミたちの姿に気づき……手に持っていた小箱を放り投げて、悲鳴を上げた。  彼のたおやかに整った顔が、見る間に赤くなってゆく。 「し、し、失礼しましたっ」  裏返った声で、そう叫んで。  マツバが慌ただしく部屋を出て行く。  男娼なんて仕事をしているくせに、ずいぶんと初心(ウブ)な反応だな、とアザミは彼の慌てふためいたその後ろ姿を眺めて思った。  くくっ、と肩を揺らして笑いながら、アザミは男の胸板を押した。 「続きはまた夜だね。怪士」  アザミがそう言うと、怪士は唾液で濡れたアザミの乳首を、名残惜しそうに見て……欲望で潤んだ瞳を、苦く歪めたのだった。  今朝は散々アザミにさびしい思いをさせたのだから、今度は怪士が困ればいいのだ。  少し意地悪な気分になって、アザミは乱れた着物を整え、飛び出していったマツバを追うべく立ち上がった。 「アザミさま……」  呼ばれて、怪士を見下ろすと、男の股間が膨らんでいるのが黒衣越しに見えた。  アザミの後孔が切ない疼きを訴えてきたが、アザミは元男娼。欲望をコントロールすることは得意なのである。 「ふ、ふふっ……お預けだよ、怪士」  淫靡な声で囁いて、アザミは般若の面で顔を隠した。    イチゴよりも甘い表情になっていることは、自分でもよくわかっているアザミであった……。 END

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