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【問3】(4)
やればできるんじゃねえか。無意識に口角が上がる。
思っていたよりだいぶバカで、相当ぶっ飛んではいるが、言われたことはきちんと守る。
素直な小鳥遊を可愛いと思った。
人差し指と親指で、小鳥遊の鼻をぎゅむっと摘む。
この感情は、生徒に向けるそれだ。
恋愛じゃない。
「十年早いんだよ……ばあか」
摘んだ鼻を引っ張って、ちょっとだけ顔を近づけてから、笑ってみせた。
小鳥遊は目をまんまるくさせて、何度かぱちぱち瞬いて。
それからぽかりと開けた口で「ええー?」と心底不満げな声を漏らした。
「え、今の、そういう流れじゃないんですか?」
「んなわけねえだろ。何回も言わすな、犯罪だっつーの」
「ええ、嘘ぉ? そんなぁ」
さっきの殊勝な顔は何だったのか。眉を八の字にして嘆く小鳥遊は、紛れもなく十六歳の子供の表情をしていた。
「大人になったら考えてやるよ」
「大人って何歳ですかっ」
「さあなぁ」
俺も知りたいよ。
口には出さずに、今度は正面から小鳥遊の頭をわしわし撫でてやった。
世の中にはどうしようもない事がある。
お前が俺よりひとまわりも遅く生まれてきたこととか、教師と生徒として出会ったこととか、そうじゃなかったら出会ってないかもしれないこととか。
それでも、今は限りなく平行に近く見えても、延長線上ではいつか交わる。
そういう軌道上に俺たちがいるのだという確率は、ゼロではない。
たぶんな。
どうだろうな?
「せんせいに頭撫でられて、勃ったんですけど……責任とってください」
「お前さ、俺の話聞いてた?」
「だってせんせいのせいですもん! ちんこさわってください!」
どちらにしても、計算じゃ出せないその答えがわかるまでは、かなり時間がかかりそうだ。
了
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