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第1話
小鳥遊希望はかつてないほど浮かれていた。
ライと希望は、身体の関係、恋人ごっこ、その他数回訪れた別れの危機を乗り越えたんだかなんだか。とにかく、紆余曲折を経た結果、ようやく希望はライのことを「俺のかれぴ♡」だの「ハニー♡」だの、ふざけているのか本気なのか判断しかねる呼び方ができる程度にはライを「恋人」として受け入れられるようになった。自分とは愛のかたちが違うけど、ライもライなりに自分のことを愛してくれているのだろうと、ようやく信じることができたのだ。
今まで自分の片想いだと思い込んでいたし、事実そうだったはずだが、今は両想い。何故そうなったのかは、わからない。希望自身が「なんで? いつの間に?」と不思議に思っているくらいだ。
しかし、少し驚いたものの、希望はすぐにそんなこと考えるのはやめた。
両想い。
なんて素敵な言葉だろう。
自分の好きな人が自分のことを好きと言ってくれている。奇跡だ。夢みたい。あ、いや、好きとは言ってないな。愛してるとは言ってた。誰にも渡さない絶対離さないとまで言ってくれた。その時の目は、あまりにも暗く、底知れず、ちょっと怖かった。あの人の目はいつも怖い。
だけど、両想いには違いないはずだ。こんなに幸福なことがあるだろうか。いや、ない。反語の効果があるのに畳み掛けるように否定をしてしまうほど、これ以上の幸福など知らない。実際、希望はすごく嬉しかった。
今まで「甘えたいなら他に行け」とか「甘やかしてほしいんだったら身体使って誘え」などと酷いことを言われ、「恋人なのに!」と反抗しようものなら「ちげぇよ、調子に乗んな」と返された。今考えても悲しくなってくるし、悲しみはそのまま怒りに変わる。あの野郎ぶん殴りたい。強引に処女を奪う前は、もっと丁寧に口説いてただろうがこの野郎、と。
しかし、最近は様子が変わった。どうやら他の人には甘えてほしくないらしい。添い寝もダメだしキスもダメ。このあたりは理解できる。でも甘えるのも優しくされるのもダメとはどういうことだろう。しかも、本当は希望が他の誰かに歌を聞かせるのも笑顔を見せるのも嫌だとか言っていた。希望は歌手だし、芸能人である。歌うのも笑顔を見せて愛を振り撒くのも仕事だ。というよりも、仕事にする以前から希望はそういう風に生きてきた。だけど、ライはそれが本当は嫌なのだと最近知った。
何故そこまで嫌だと思っていることを今まで言わなかったんだろうと希望は不思議で仕方ない。どんなことでも好きな人が不安なら知りたいし、不安を消し去れるように精一杯努力し、愛を示すものだと希望は考える。天上天下唯我独尊を行くライの性格上、希望を慮って言わなかったとは考えにくいから、希望は不思議に思った。
ライは好き嫌いをあまり言わない。特に嫌いなものに関しては隠す傾向がある。甘いものが嫌いだということでさえ、なかなか言わなかった。それが何故なのか、希望にはまだよくわからない。
だが、希望は最終的にある結論にたどり着く。
なんだかわからないけどライさんは俺のことがすごく好き! ってことだなと。
気付いて見ると全てに納得した。ライさんが俺を見るたびにイライラしていたのは、俺の可愛さと俺への愛しさ故だったのだ。なんということだ、魅力的すぎてごめんなさい。正直、ぶん殴ってやりたい時もあったけど、今は許しましょう。何故なら愛し合っているから。愛しい人のヤキモチなんて、可愛いもんだ。愛しい人はでかくてごつくてえげつない、可愛さの欠片もない男だけど。まあ大丈夫、OK、受け入れます。
俺の愛の深さと重さを思い知るがいい! 俺もライさん愛してる! 超好き! 両想いだね!
そういった事情で、小鳥遊希望はかつてないほど浮かれている。
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