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0721の日
今日は、ヴァルディースがいない。
炎精の長老に呼び出しを食らったとかで、眉間にシワを寄せ、珍しく口をへの字に曲げで出て行った。二、三日は戻らないと言うから、レイスにしてみれば久々の独り寝だ。
腹が減ったら握っておけと渡された、ヴァルディースの魔力を込めた紅玉の首飾りを弄ぶ。小ぶりの卵くらいはあるそれは、人間の世界で売ったら一体いくらになるかわからない。
しかしいくら価値があろうとレイスにとってどうでも良かった。確かに魔力も補充できて飢えたりもしないが、ヴァルディースの代わりになるわけもない。
ぽいと寝台脇に放り出して、今夜はさっさと寝てしまおうと布団にくるまる。その途端、ヴァルディースの残り香みたいなものが、ふわりとレイスを包み込んだ。
しばらく魔力の補充ができないからと、昨日はこの寝台でいつもより長く抱かれた。ヴァルディースの気配に包まれていると、昨日の自分の痴態がまざまざと脳裏に蘇ってくる。あの腕に抱かれていると、一瞬でタガが外れてしまうのだ。思い出すだけでもひどく恥ずかしい。
「くっそ、寝れねぇじゃねぇかっ」
頭まで布団をかぶっても、余計ヴァルディースの匂いが濃くなるばかりで、顔の火照りがおさまらない。
そもそもレイスは眠りが浅い体質で、一人でいると眠れないことなどザラだった。それがヴァルディースと出会ってからは、夜毎疲れきるまで魔力の補充という名目で抱かれていたし、そうでなくともヴァルディースの腕に抱かれているとなんとなく安心しきってしまって、眠れないなんてことはなくなっていた。
だから久々に一人で過ごす夜が、ひどく長く感じる。ヴァルディースが恋しくてたまらなくなる。
ヴァルディースの眷属になったから、ヴァルディースを恋しく思うのは当然だというが、それだけでないことなど分かりきっていた。レイス自身がヴァルディースを欲している。
戻ってくるのはいつなのだろう。ヴァルディースと意識が繋がっているため、レイスにヴァルディースの思考は読めないが、呼べば答えるとは言っていた。しかし随分と遠くまで行ってしまうようだし、本当に届くのだろうか。
ただ、届いたところで寂しいから、などというくだらない理由で呼び戻すなんてできるわけがない。呼び戻せるとしたら、よほどの緊急事態が起きた時くらいだろう。
隣にあるユイスの家に行ってみようか。そう思った時だ。
「あぁっ、ん……フェイッ……!」
隣から夜の闇に響く甲高い嬌声が聞こえた。
「フェイシスの野郎……っ」
あちらはどうやら盛り上がっている真っ最中のようだ。変態じみたカマ野郎のどこがいいんだか、双子の兄は水の精霊のフェイシスとよろしくやっている。しかも、いろいろと妖しいこともしているらしい。
これではユイスに頼ることもできそうもない。
「それにしても」
「んっ、フェイ、ふぇい! アッ、イッちゃ——、アァッ!」
隣に建っているとはいえ、ユイスの嬌声が絶え間なく響いてくる。今まで自分も夜はヴァルディースに身を任せて他に意識など向かなかったから気づかなかったが、これでは自分の声だって隣に丸聞こえだったんではないだろうか。
考えるだけでも頭を抱えたくなった。ユイスは今まで何も言ってこなかったが、よりにもよってユイスに聞かれていたかもしれないとすれば、最悪だ。ヴァルディースが戻ってきたら防音についてしっかり対応してもらわなければいけない。
念のため、窓の隙間に詰め物をしてみたが、完全には遮断できなかった。双子の兄の喘ぎ声を聴きながら寝なければいけないと考えると、さすがにレイスも気が滅入る。
「しかもアレ、オレと同じ声なんだぞ」
まるで自分の喘ぎ声を聞かされているような気分だ。自分もヴァルディースに抱かれている間、あんな感じなのだろうか。
またヴァルディースとの夜を思い出して、途端にかーっと、顔が熱くなる。ヴァルディースに触れられ、口付けられて、我慢しても溢れる声を止められない。そんな自分のあられもない姿。
「いや、待てオレ、余計寝れなくなるだろうがっ」
しかし、一度思い出してしまったら次々と思い出したくもないのに溢れ出てくる。耳朶を、首筋を嬲るヴァルディースの舌先。そのまま胸元を舌先で転がされて、レイスはびくりと震える。
ヴァルディースは本体の性なのか、やたら舌先での愛撫がうまい。さらに触れるところから滲み出るヴァルディースの魔力が、レイスにとっては媚薬にも等しく、あっという間に昂ぶらされる。
逞しい胸板に身を預け、腕に抱かれて自分の下肢を弄ばれて、耳元に響くヴァルディースの低音に包まれながら後ろにヴァルディース自身を受け入れるときにはもう、レイスは全身で震えてとろけさせられているのだ。
そんないつもの自分とヴァルディースを思い出して、ただの記憶でしかないのに、きゅうと下肢が疼き始めたことにレイスは自分で途方に暮れた。
こんな気分で独り寝だなんて、耐えられそうにない。かといって、ヴァルディースと出会う以前ならともかく、今更行きずりの男を捕まえて身体だけでも慰めようなんて思えるわけもない。
「ぅ……、どう、すんだよコレ」
認めたくはないが、半勃ちになってきた自分の息子がそこにある。
正直、一人でするのはレイスは苦手だ。身体も心も満たされなくて、ひどく辛い。でも、このままというのも辛い。
悩んだ末、レイスはそろそろと自分の下肢に手を伸ばした。こんなことをするのは何年ぶりだろう。グライルと別れた直後は、満たされないもどかしさに泣きながら、自分でやっていた気もする。
手で包み込んで、上下に擦る。一番敏感なところに直接与えられる刺激に、はぁ、と吐息に熱が篭っていく。同時に疼く後ろにも指を添える。
入り込んでくる異物の刺激にすぐに濡れる程度には、身体はとっくに後ろで受け入れることを覚えている。前と合わせてナカも擦る。昂ぶって腰が勝手にヒクつく。
けれど。
「ッ、やっぱムリ」
物足りない。張り詰めたそれは、刺激は足りているはずなのに何かが足りないのか、いくら扱いても達せる気配がまるでない。むしろやればやるほど切羽詰まっていくだけで、イクことができなくて苦しい。
「……っ」
目頭が熱くて、布団に顔を埋めると目尻からこぼれたそれが布を濡らす。後ろが疼く。指を増やしてみても、届かない奥が熱くて苦しい。
「はっ、あ……っ」
ガクガクと膝が笑ってきた。なのに訪れていいはずの波は来ない。指も震えてたどたどしくなっていき、もどかしさが募るばかり。
その時寝台の脇に放り投げた赤い石が目に入った。
ヴァルディースの魔力が込められた小さな卵大の石。ああ、それがあれば満たされるだろうか。
レイスは躊躇おうという気すら起きなかった。握り込んだ途端、ヴァルディースに触れられた時のように身体にかっと熱が走った。
「ヴァル……っ」
それが欲しかった。滑らかな紅い石に口付けて舌先で唾液を絡め、それすらももどかしく、それを後ろに押し付け一息に押しこむ。
「ひぁっ……!」
その途端、身体に電流が走ったかのようだった。石から溢れでる魔力に、ヴァルディースがナカにいる。そんな錯覚すらした。
「ぁっ、は、ァッ——」
ナカでソレを上下させる手が止められない。押し寄せる快感。張り詰めていたそれがようやく解放され、しかしその側からまた次の波が襲った。
けれど、身体の絶頂に反して心は張り裂けそうで、苦しくて、渇ききっていく。
「ぁ、ぅあ……っ」
カタカタと足先、指先が震える。ついにナカで動かすことも自分で動くこともできなくなって、身体が強張るばかり。
抱いて欲しい。あの腕で抱きしめて欲しい。身体の飢えは解消されていっても、絶対的に足りないものがある。求める相手が、いない。ヴァルディースの温もりが足りない。
「ぁあ、ヴァルっ、ヴァルディース……っ」
「呼んだか、レイ」
不意に聞こえた耳に馴染んだ声にはっとして顔を上げた。そこに呆れたようにレイスを見下ろすヴァルディースがいた。
レイスは思わず二度三度と瞬いて、それから恐る恐るその身体に手を伸ばして、もう一度はっとした。
「あっ、な、なっ!?」
「お前が呼ぶからだろうが。遠かったんだぞ」
ヴァルディースである。正真正銘本物のヴァルディースだ。炎の色の赤い髪。端正な顔立ち。驚くレイスに、何を驚いているのだと言うように首を傾げてみせる。
「なにしてるのかと思えば。こんなものこんなとこに入れて。そんなに飢えてたのか? 昨日散々やってやっただろう」
ヴァルディースが無造作にレイスの後ろに挿入された紅玉の紐を引いた。
「ひ、やっ、触んな、バカっ!」
「馬鹿はお前だ。そんなに締め付けるな。紐が切れる」
「あ、ッ——」
ヴァルディースの指が奥に入り込んできた。ヴァルディースに触れられた途端に、勝手に中の紅玉をより奥へ導こうとしたレイスの身体に対して、かき出すようにして紅玉を取り出そうとする。その感触にゾクゾクと背筋に快感が走る。それだけで全身が痙攣して、絶頂がこみ上げた。
「あっ、アッ! ヴァル、ヤメろっ、ッン——!」
あっさりと果ててしまって、恥ずかしさに顔から火が出そうだった。
先ほどの無機質で物足りないものとは全然違う。ほんの指先だけなのに、ヴァルディースが触れていると言うだけで身体が心が悦び、とろけてしまう
「なんだ、気持ちいいのか?」
小馬鹿にするような笑み。おとなしく肯定なんてできるわけもなく、強く首を振る。そんなことをしたところでヴァルディースにはレイスの感情など筒抜けでで、誤魔化すことなどできるわけもないというのに。
「じゃあ、このまま自分でやるか? それなら俺は戻るぞ」
その問いは意地悪だ。そんなことをされたら耐えられるわけがないではないか。
けれど、レイスが答えることができずに身体を強張らせたまま押し黙ると、嘆息してヴァルディースは取り出そうとしていた紅玉をもう一度ナカに押しこんだ。
「なっ、んでっ、アッ!」
ナカでヴァルディースの指先が紅玉を弄ぶ。
「や、ヤダ、やめ、ろよッ!」
「どうするんだ? それともこのままコレでイっておくか?」
「は、ぁぁぁっ、……っ!」
ぐり、と紅玉を奥の一番弱いところに押し付けられ、悲鳴が上がる。
仰け反った反動で、溜まり込んでいた涙が頰に流れ落ちる感触がした。このままコレでイかされるなんて、酷すぎる。せっかく目の前にヴァルディースがいるのに。
「もう、や、だぁ……っ!」
紅玉を押しこむヴァルディースの手を押し退けようとしたところで、力で叶うわけがない。逃れようと身を捩らせても逃げるなと引き戻される。
いますぐにでもヴァルディースが欲しいのに、なんでこんなことをわざとするんだ。わからないわけがないのに。レイスはヴァルディースの前ではいつだって丸裸なのだ。
すすり泣きそうになるのを必死で押し込める。
ヴァルディースがレイスの隣に寝そべり、背後から抱きすくめられた。もう片方の手がレイスの肌を滑る。やっと気づいてくれたのかと思ったが、違った。それはレイスの中で再びこみ上げる行き場がないもどかしい熱を煽るだけでしかなかった。快感が、ヴァルディースが触れるところすべてから染み込んでくるようで、狂いそうになる。
ヴァルディースに耳の裏を甘噛みされる。吐息と絡み合った水音がすぐ側で脳髄に響く。でも、それじゃイケない。
ゆっくりとナカで紅玉が奥に擦り付けられるだけでは足りるわけもない。身体が勝手にヴァルディースの指の動きに合わせて動いても、気休めにもならない。
ヴァルディースが欲しい。それしか考えられない。
「レイ、欲しくないのか?」
耳元に響いた低音に、ついにレイスの中で何かが壊れたような気がした。
「ほしぃ……っ、もう、ヤダっ、おまえがっ、イイっ」
その途端、いきなり向かい合わせにきつく抱きしめられ、ずるりとナカから紅玉が引きずり出された。
「アァッ!」
突き抜けた快感にヴァルディースにしがみつくと同時にヴァルディース自身がナカに入ってくる。深い口づけがレイスを襲う。
深く深くヴァルディースと繋がっている。まるで一つに同化して、境目がわからなくなってしまうような。
激しく突き上げられ、何度も痙攣しては果てる。そうしてぐったりと、もう身動きができないどころか声すら枯れ果て、疲れ切って意識が遠くなる中で、そっと頰に口付けられた。
「本当に馬鹿だな、おまえは。素直になればいいだけだろうに」
馬鹿だなんて言いやがって。うっすらとした意識の中でそう罵った気がしたが、でも、あちらこちらに優しいだけのキスを降らせるヴァルディースの苦笑に、何も返せない。
「どこにも、いくな……」
ただ、夢の中だったか現実だったかどちらかわからないながらも、そんなことを呟いた気はした。ヴァルディースの手を握って、ゆっくりと目を閉じる。心地よい眠りが落ちてくるのがわかった。
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