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炎狼の快楽 1

 口付けを重ね、肌に指を舌を滑らせるたびに、レイスの頰が上気して額に汗が浮いていく。甘く甲高い声が次第に切羽詰まっていく様は、ヴァルディースにとっても魅惑的で愛しかった。  レイスをもっと悦くさせたい。気持ちよくさせてやりたい。愛したい。そう思うのはヴァルディースにとっても自然なこと。余すところなくレイスが感じる場所を愛撫して、ヴァルディースの魔力に浸していく。快楽の海に溺れさせる。それがヴァルディースにとっての、レイスとの行為における楽しみだった。 「あっ、あぁ……ッ」  レイスが喉をのけぞらせて喘いだ。ぷくりと立ち上がった乳首を口の中に含み、ころころと転がす。もう一方を指で摘むとレイスの足先が震え、手が敷布をぎゅっと握りしめた。  とん、とヴァルディースはレイスのナカに埋め込んだ指先で、軽く奥を突いてみた。 「はっ、あぁ…………!」  ガクガクと全身が震え、ぎゅっと後ろの入り口がキツく締まる。そっと口付け、髪を梳き、撫でてやる。  熱に潤んだ緑の双眸がヴァルディースを見つめた。けれど、眉間をキツく寄せて、レイスは頑なに首を振る。 「や、だ……ッ」  ヴァルディースは困惑していた。先刻からレイスはヴァルディースに挿入されることを拒んでいた。  レイスの中心はすでにきつく立ち上がり、今にもはち切れんばかりに張り詰めている。呼吸も荒く、全身朱に染まった身体は熱く、震えっぱなしで、もうとっくに限界のはずだ。  実際、身体もヴァルディースに流れ込んでくる意識も、ひたすらヴァルディースを欲している。けれど、そこに「でも」がつく。 「レイ、強情張るのはやめておけ。お前が苦しいだけだろう」  もう一度、奥を指でついてやりながら、諭す。  甲高い悲鳴と共にのけぞったレイスが大きく身を震わせて、その拍子に目に滲んだ大粒の涙が溢れた。  レイスがイヤイヤとヴァルディースを困らせるのは今に始まったことではない。基本的にレイスは素直じゃない。欲しいのに素直に言い出せないことがほとんど。心の中でレイスが思うことは、意識が繋がっているヴァルディースには、手に取るようにわかる。だからこそあえてレイス自身の言葉で、求めて欲しいと思う。  けれど今回は違った。「でも」とそこから続く言葉は、意識の上でもヴァルディースには明確にはわからない。レイスが今回ばかりは頑なだと言うことだけが、わかるだけだ。おそらくレイスの中でも明確に考えとしてまとまってはいないのだろう。   ヴァルディースはため息を吐き、レイスを抱きすくめた。  レイスの身体を維持しているのは多くがヴァルディースの魔力だ。性行為を模すことでその魔力を補充してきたが、レイスが素直になれないわけではなく拒むのに、無理矢理にはしたくない。しかし魔力供給を途絶えさせるわけにもいかない。  僅かではあるが、こうして抱きすくめることでも、触れ合う場所から魔力は与えることができる。今日は、このまま行為を続けることは断念せざるを得ないのかもしれない。  ぐすりぐすりとレイスが震えて、ヴァルディースの胸元に顔を押し付けてすすり泣きはじめた。ぎゅっときつくヴァルディースにしがみついてくるのは、たぶんレイスにとってもこの状況は不本意なんだろう。 「何がそんなに嫌なんだ?」  頭を撫で、額に口付ける。レイスが口を引き結んでじっとヴァルディースを見つめる。 「だって、オレばっかり……」  気持ちいいから。  その言葉に続いて流れ込んできた意識に、ヴァルディースは意表を突かれた。  それは正直意外な反応だ。レイスは快楽に貪欲な方だと思う。気持ちよければそれでいいとさえ以前は思っていたはずだ。  確かにヴァルディースの眷属になった直後は、本能的にヴァルディースを慕ってしまうことに対して、拒絶はしていた。ただ、それに対しては、今は受け入れてくれたと思っていたのだが。 「気持ちいいのが嫌なのか?」   そう言われてしまうとヴァルディースとしてはどうしようもない。眷属であるレイスがヴァルディースの魔力に快楽に近いものを感じるのは必然的な反応なのだ。対策しようにもできるものではない。  しかしレイスは首を振る。 「そうじゃなく、て……。お前は、気持ちよく、なさそうだから」  レイスが何を言いたいのか、ますますヴァルディースにはわからなくなった。レイスが気持ちいいことと、ヴァルディースが気持ちいいこととが繋がらない。  そもそもこの状況でヴァルディースが気持ちよくなるとは一体なんのことだろう。  困惑していると、レイスがぺたりと未だ熱を持った手のひらを、ヴァルディースの胸のあたりに重ねる。 「お前は心臓の音も、体温とかも、全部作り物だから。わかってるけど。けど、だから、わかんねぇんだ」  さみしい、と心の中でレイスがかすかに嘆く。ぎゅっとしがみつくレイスのその感情だけは、ヴァルディースにも痛いほどよくわかった。  きつくヴァルディースはレイスを抱きしめた。  レイスはヴァルディースが性行為を気持ちよくないと感じているのだと思っているらしい。それがレイスは寂しい。そして性行為をしてレイスが気持ちよくなればなるほどその気持ちは募っていく。それだけはよくわかった。 「悪かった」  ぽんぽんと背中を叩くと、お前は悪くない、と怒鳴られた。あくまで自分のわがままだと、レイスは思って自分を責めている。どうしたものだろう。  確かにヴァルディースは精霊で、人間であったレイスとは感覚も身体の作りも大きく違う。元来性欲というものがないから、人間の言う快感というものもわからない。その差異が、レイスを不安にさせるのかもしれない。 「レイ。俺は気持ちよくないわけじゃないぞ。お前が気持ち良いと、俺も気持ちいい。俺はもっとお前を悦ばせたい。もっと俺を感じてほしい。それだけは絶対に間違いないんだ、レイ」  それがヴァルディースにとって、掛け値無しの本当の気持ちだ。レイスが幸せであること。それがヴァルディースにとっての喜びだ。  レイスの顔を上げさせて、深く口付ける。未だ不満そうではあるものの、レイスのこわばりがほぐれていくのがわかった。 「ぁ……」  抱きしめ、腰を抱き寄せ膝の上に乗せる。鼻にかかった甘い響きを伴って、レイスがヴァルディースを奥に導いていく。 「んっ、あぁ……!」  熱いレイスの中に自身を埋め込んでいく中、そこでヴァルディースはようやくレイスの言っている意味に気がついた。快楽に悶えしがみついてくるレイスの熱と、ヴァルディースの体温はあまりにもかけ離れていた。  ずっと人と触れ合ってきたレイスが寂しいのは、きっとそういうことなのだ。そしてたぶんそれは、精霊であるヴァルディースにはどうしようもできないことは、レイスにもわかっている。だからこそきっと、寂しいのだろう、と。

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