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カウントダウン・セックス10
莱耶side
「蛍、ありがと」と二人で湯船につかっているときに、僕はぼそっとつぶやいた。
「え?」と後ろから抱きしめていた蛍が、不思議そうな声をあがた。
「帰りたくないって僕がわがままを言ったから」
「小森の資産の一つだから。たまには使わないとな」
ここはいくつが持っている蛍の別荘なのだろう。僕が帰りたくないって言ったから、眠ってしまった僕を連れてここまで来てくれたんだ。
昔から蛍は僕に優しすぎるくらい、優しい。わがまましか言えない僕を受け止めて、愛してくれる。
僕には勿体ない男だ。
「蛍、三日間。ここで二人で過ごさない?」
「それ、莱耶の腰がキツくなるってわかって言ってる?」
「わかってる。恵が出張してから、忙しくて一緒にいる時間が少なかったから。一緒にいたいんだ。セックス三昧でいいから」
「喜んで」と蛍がにっこりと笑った。
風呂から出てくると、僕のスマホが鳴っていた。相手は恵からだ。
「なに?」
今、いいところなんだけど? と言いたい気持ちを抑えて、スマホを耳にあてた。
『馬鹿が裏切った。取引材料を持ち逃げした。すぐにあちらに戻る。お前も一緒だ』
恵の超絶不機嫌な声が、耳に入ってくる。
いいところなんだけど? と言わなくて良かった。言っていたら、恵の八つ当たりが待っていただろう。
「正月休みは返上ですか」
『事が済んだら、いくらでも代休はやる』
「そう言って、代休をもらえたためしは無かったと思いますが」
恵の声がスマホから漏れ聞こえていただろう。蛍が、残念そうに微笑んでから服を着始めた。
『蛍はいるか?』
「ええ。います」
『智紀を連れていけ』
僕がちらっと視線を動かすと、「わかったよ」と蛍が肩をすくめていた。
久しぶりに蛍とゆっくりと過ごせると思ったのに。これじゃあ、いつもと同じだ。
片がついたら、絶対に代休を恵からもぎ取ってやろうと、僕は決心して恵との電話を終わりにした。
カウントダウン・セックス~完~
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