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七草がゆ02

「……で、道元坂は本当に七草がゆを知らないのか?」  俺は今まで、七草がゆを知らないヤツに出会ったことがないんだが?  スーパーだって、何にも前から七草がゆ特集をしているし、テレビを見れば、宣伝だってしてるのに。  日本人なら、なんとなく染みついている風習じゃないのか? 「知らない」 「テレビでやってるし、家で食べるだろ?」 「テレビは見ない。家でも食べない。私は普通の家庭で育ってないからな。養父である道元坂に拾われるまでは、施設で育った。施設も裕福じゃない。季節の祭りごとの祝いなどしたことがない」 「……そっか、ごめん」と俺は小さい声で謝って、道元坂の向かい側に座った。 「智紀が謝ることじゃない。私の過去だ。智紀は祭りごとをいろいろ知っているようだ。これから、私に教えてくれ」 「わかった」 「姫初めとか。あるんだろ?」 「ああ?」と俺は片眉をあげて、道元坂を見やった。  おかしそうに笑って、道元坂は俺を見ている。  さっきまでのしんみり雰囲気はどこにいったんだよ! 普通を知らない道元坂に、これから俺が家庭のあたたかさを教えていくことに胸をほっこりさせたんぞ。返せ、俺のほっこり時間を。 「どうでもいい、そういうのは知らなくていい」 「私は知りたい」 「知るな。次の行事は恵方巻だ!」 「ああ、長いものにかぶりついて、その年の方角を見て黙ってしゃぶるんだろ?」 「はあ?」 「私のを」 「ああ? なわけないだろ! なんで、道元坂のを咥えなきゃいけないいだよ。違うだろ! 巻き寿司だ! 馬鹿野郎」  くくく、と道元坂が楽しそうに笑い声をあげていた。  なんか……七草がゆを知らない説が薄くなってきてないか? 実は、知ってたんじゃないか? 俺をからかってんだろ。 「黙って粥を食え!」  俺は七草がゆを指でさした。道元坂はおかしそうに肩を揺らしながらも、粥を食べ出した。  人をからかいやがって。しんみりした俺が馬鹿みたいだ。  俺は力作の七草がゆを口に入れて、温かくてうまい粥にほっこりした。  七草がゆ 終わり

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