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第1話

12月某日――。 僕は大学の図書館で、資料の山と格闘していた。 執筆中の卒業論文で内容についての軌道修正が必要になり、その資料を漁っているのだ。 卒論の提出期限は12月末。頑張れば間に合うはずだけど、時間的余裕はない。 当然気持ちは焦っていた。 そんな時、背中越しに声が聞こえる。 「せんぱ~い、こんなところにいたんスか!」 振り向かなくても分かる。 少し甘えた響きを持つこの声は、岸アラタのものだ。 アラタは同じ学部の1年後輩であり、バイト先も僕と同じ。 そして1年前から交際している、僕の恋人でもあった。 「探しましたよ、先輩。午前中から連絡入れてるのに、全然返事くれないから」 「……連絡?」 慌ててスマホを見ると、アラタからのメッセージが3件、未読のまま溜まっていた。 「ごめん、スマホ見れてなかった」 パチンと手を合わせ、アラタの顔を仰ぎ見る。 彼は自慢の金髪を掻き上げ、小さくため息をついた。 「そんなに忙しいんすか? 卒論」 「うん……忙しい。っていうか結構ピンチ」 「ってことは週末も……」 「ごめん、時間作れそうにない」 「えー……」 アラタは形のいい唇を不満げにねじ曲げるものの、それ以上は何も言ってこなかった。 僕たちの関係は周りに伏せてあるから、公の場であれこれ言えないっていうのもあるんだろう。 とはいえ「不満です」ということは、はっきり顔に書いてある。 ちなみに、関係を伏せているのはアラタの僕への気遣いだ。 こいつ自身は僕と出会う前から、ゲイだということを周りにオープンにしている。 パッと見で変わり者だって分かるのに、ゲイだからってとやかく言ってくるヤツはいない。本人がそう言っていた。 自ら変わり者だというこいつは、長めの髪を金色に染め上げていて、その上細くて上背もある。 絵に描いたロックミュージシャンみたいないでたちだ。 確かにこんなカッコいい若者が男を愛そうが女を愛そうが、一般人には関係ない。 ザ・一般人の僕はそう思う。 けれど、こんなアラタが選んだ相手は、その僕なわけで。 世の中見た目じゃ分からない。 きっと僕らが学校でじゃれ合っていても、さすがに付き合っているとは誰も思わないだろう。 僕らは暇な週末を一緒に過ごす、まあまあ仲のいいカップルだと思う。 1年前、こいつに告白された時は正直驚いたけれど……。 お試しでいいからと口説かれて付き合い始め、はや1年だ。 アラタはこれで甘え上手で可愛いし、話題も豊富で、一緒に過ごすのは楽しい。 男同士だからということもあって体の関係は未だないけれど、喧嘩らしい喧嘩もなく、交際は順調といえる気がした。 ただ4年の僕が卒論で忙しくなった今、こいつのフラストレーションはかなり溜まっているらしい。

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