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【1章】13

千堂と別れると、いつの間にか授業は終わっていた。 食堂に向かう人の濁流に逆らって教室へ戻ると、凛生がぽつんと自分の席に座っている。ぴんと伸ばした背筋がどこか心許なく見え、早急に凛生の肩に手を伸ばした。 「遅い」 顔だけこちらに向け凛生が無表情に呟く。その瞳の咎めるでもない色をした侘しさに居てもたってもいられず言葉が詰まる。 「すまん。千堂と話をしてた」 繕って出た俺の声に凛生は無関心のように「そう」とだけ返事をし、席を立った。 普段の凛生は人に壁を作る。遊びでの流暢な彼はどこにもいない。 話しかけられれば普通に対応するが、凛生が深くまで関わろうとしないことに周りも段々と気付き始め、周知にそれでいい存在とカテゴリーされている。遊びで接する奴らの中には、普段素っ気ない凛生がこんなにも自分を慕ってくれると優越感に溺れることもあるだろう。 第一、本人は俺以外と関わろうとしないことに躊躇いもなくそれでいいと思っている節がある。馬鹿げた優越感を微塵も感じないと言えば嘘になるが、凛生が誰かといることを壊したいわけでもない。望むことをすべて叶えてやる。そこに俺の存在意義がある。だからこそ自ら余計な口出しをせずに側にいた。 それを踏まえて今この時、凛生を待たせてしまったことがもう反しているのだ。心の中で己を叱咤し、激しく後悔した。 そんな俺を気にも止めず、立ち上がった凛生が自分の鞄の中から弁当箱を二つ取り出し俺に渡す。凛生の家の使用人、美智子さんの手作りだ。 学園内には他の学校よりも立派な食堂が備え付けられ多くの生徒はそこで昼食を取る。しかし、あまりの人の多さに凛生が好かないため美智子さんが毎朝甲斐甲斐しく作っている。自分の分も用意されたのはずいぶん昔からで、当初は断っていたものの笑顔の圧力にとうとう根負けした。本音を言うと凛生と一緒なら、自分は菓子パンでも食べずでも良いのだが。

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