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【1章】12

ふんっと鼻で嘲り、俺はポケットにあった携帯を持ちいつものようにネットバンクを開く。 「今は金しかない。いくらだ?」 千堂の口座へ送金しようと操作を進めているとまた喧しい声が鳴る。 「ちゃうちゃうちゃう!今回は特例や。金も情報も隣の女共のケー番もいらん」 過去に取引した対価を突っぱねながら千堂はまたニヤリと笑って続ける。 「ただ旦那はんにちぃとばかし手伝ってもろたら出血大サービス。寿郎ちゃんがまけるなんてレアやで、レア」 「手伝い?」 「あんなぁ…ボク、あのエセアイドル欲しなってん」 意地の悪い笑みに変わりながら稚拙に言い放つ千堂の目は笑っていなかった。 好意的な意味ではないだろう。利用価値がある、千堂の思惑はどこまでも貪欲だ。 「趣味が悪いな」 「またまた旦那はん人が悪いわあ。わかっとるくせに…で、どないする?手札は色々そろっとるで。あとはちぃーっとばかしこかすだけや」 千堂がここまで手の内を見せるということは、俺が絶対断らないと踏んでいるのだろう。凛生を思えば過去に関係があった秋守と千堂を近くに置くべきではない。千堂はまだ凛生の遊びを知らない。 ただ、今断れば千堂は必要以上に俺や凛生の周辺を嗅ぎ回る。手に入れたいものがあればどんなことをしても必ず手に入れる男だ。俺が協力しなくても秋守を手に入れられるとしたら?千堂が自ら動く前に秋守に釘を刺したくても俺には優位な手札がない。 それに最初の目的だった話が聞けないのも困る。秋守の話を出してきたということはそれと関連した話なのだろう。 瞬時に駆け巡った思考を経て、俺は千堂に協力することを告げた。

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