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【1章】11

タイミング良く現れた名前に疑念は真実へと変わるかもしれない。手繰り寄せる興奮と動揺は内に秘めた。 凛生の8番目、秋守聖。 女かと見間違えるほどの肩の薄さも、媚びるような視線も、わざとらしい最中の矯声も気分が悪くなるほどよみがえる。すべての感情を押し殺し素知らぬ顔で千堂に問う。 「何故その話を俺に?」 「あれ?欲しかったんちゃう?周りはみーんな聖ちゃん言うて騒いどるのに、ええ思いした旦那はんが忘れるっちゅうことはあらへんなぁ」 千堂の物言いに引っかかる。俺と秋守の間に何かがあった、そう確信している口ぶりだ。自ら秋守の名前を出したこともないし、関心を寄せたこともない。千堂が編入する前の話をどうしてこいつが知り得るのか。 「旦那はんは東雲の坊ちゃん一筋やと思ったのにけったいな話やで。あんなエセアイドルもどきにぐらっとくるかて。モノホンの美人が横におっても発情できひんジレンマなん?やなかったら…なんや別の思惑があるっちゅうことかいな」 くっくっと笑い、俺の様子を逐一観察している。本当に食えない奴だ。 今までも特定の誰かを対象に千堂に求めることもあった。少し調べれば凛生が親しくしている人物だとわかるだろう。俺の行動を独占欲だと勘違いする分には何も問題はない。むしろ、そうしてくれたほうが好都合だ。 だが、千堂はそれ以上に踏み込もうと余計な詮索をしている。人を蹂躙することに長けていてもなにひとつわかっていない。凛生が俺に発情させないだと、何を馬鹿げたことを。そんな次元で物事を見ている奴に本質は見抜けない。 俺の欲はそんなに生易しいものじゃない。 「何も話すことはない。どう捉えられても構わない」 「そんならそれでええ。なんやけどなぁ、残念なことに寿郎(じゅろう)ちゃんの目は誤魔化されへんねん」 千堂は煽るのがさも楽しいというように自分の名を交えて大袈裟におどけて見せた。

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