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【1章】10

「お、早かったやん」 目的の場所に着くと千堂が人の良い笑顔で声を掛ける。階段の半ばに腰掛けた千堂の膝には薄型のノートパソコンが乗り、側には数個の携帯電話が投げられていた。 「ちょい待っとれ。なんや荒れとるから切るとこ切っとかな」 手もとをいじりながら画面を見つめる千堂に、呼びつけておいて何を悠長なと苛立ちが募る。 没頭している先は、得意の株式取り引きだろう。 金を積みさえすれば卒業できるこの学園で授業に出る選択肢がないのもわかる。しかし大半は親に肩書きがあるいいところのお坊ちゃんだ。その先の大学進学ともなればそうはいかない。こうやって派手にさぼる千堂は少数でもあり、そのくせ学園の敷地内には必ずいる全く稀有な存在である。そうやって情報収集、もとい商売をしているのだろうが。 「あかんあかん。一本損切りや。どっこも不景気で暗なりますわ。なあ、旦那はん」 「どうでもいい。本題を話せ」 喚きながら同意を求めてきた千堂に痺れを切らし、ぶっきらぼうに促す。当の本人は気にもしない素振りだが、ようやく画面から目を離し俺を見た。 「あきませんなあ、時は金なり。生きんのやったら脳みそフル回転して金稼がな損っちゅーもんやで。それになあ、何や知りたかったら先に支払ってくれんと」 にやりと口の端を引き上げ続けざまにある名前を呟く。 「秋守聖(あきもりひじり)」

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