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【1章】9
気だるい空気の中、数学の教師が黒板に書き付けるチョークの音が響く。
もうすぐ昼食とあって一番後ろの席から見渡せる生徒たちも心なしか意識が散漫しているように見えた。
そんな中でも一際、数列前にいる凛生の背筋だけがしゃんと伸びている。お家柄だろうがいつも凛生は姿勢がいい。何度となく見ているその背中をまた目に焼き付けるように眺めていると、制服のポケットに入っている携帯が震えた。
携帯を開くと千堂(せんどう)という表記でメッセージが入っている。
『東棟4階の踊り場におる。ちっとばかしおもろい話仕入れたから、出てこーへん?』
実技教室を集めた東棟はこの時間一番人気がない場所だ。
そしてこの関西弁の男は人の粗をネタに売ることを度々している。情報通なんて可愛いものじゃない、まるで商売だ。大阪にある企業の代表の息子らしいが、高等部へ上がってしばらくしてからこの学園に編入してきた。何の因果で東京なんかに来たのか。本人は東京ええやんと笑って飄々としているが目的が別にある気がするのはこの男が食えない奴だからか。まあ、興味はそれほどない。今までだって対価を譲り情報を得てきた。凛生と俺の関係をそこまで嗅ぎ回らなければ使える人間だろう。
俺は携帯をポケットへしまい直すと、右手を軽く挙げた。
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