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「そうじゃなくて、お前、四月から家族増えるんだろ?」 「はあ……。それが何か?」 「うちの会社はワーキングマザーが働きやすい企業だが、パパにもそうなんだよ」 「は?」  そういえば瑛太を引き取るにあたり、社へ諸々の申請を先日済ませたばかりだった。それはすでに部長に知れるところとなっているようだ。  文具メーカーロクカクの製品ユーザーは大人ばかりではなく子供もその対象で、鉛筆やマーカー、クレヨンなど児童向け製品も多く製造販売している。  そのせいか、子育て支援イベントやキッズ向けのイベントにも熱心で、ワーキングマザーが働きやすい企業として取り上げられることが間々あった。  社内には託児所が設置されているし、多くのワーキングマザーが働いている。子供が急病の時などは在宅勤務が許可されているし、長時間の残業をよしとしない社風でもある。  しかし家族も子供もいない広務は、全く無縁の話だと気にかけることすらなかった。まさかワーキングママ達と同等に扱われるとは思ってもいなかった。  同じ社員として働く母親達を見下すわけではないけれど、自宅や保育園で子供が待っている彼女達は仕事をセーブしなければいけない面もあるようだ。  重要な案件はフットワークの軽い独身社員や、男性社員が受け持つのが暗黙の了解としてある。働く母親に優しい企業とは言っても、幼い子供を持つ親がバリバリ働くには、やはりまだまだ難しい状況と言えた。 「俺、今まで通り働けますけど……」  何年もかけて今の実績を築き上げてきた。それを『子育ても仕事も一生懸命!』なんていう、ママ向け雑誌のキャッチフレーズみたいな働き方は今さらできない。

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