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 呆然としていると、両脇を瑛太に掴まれガクガクと揺さぶられた。十年前はあんなにも非力な赤子だったのに、なんだこれ、ものすごく力強い。脳までもガクガクと揺れる。  守らなければいけないと誓ったあの幼子の面影は、もはや、ない。 「ねー!とうちゃん、聞いてる!?早くスイッチ、ネットに繋げてよ!」 「へ?ネット?あ、はい……」  なんだかよくわからないがゲーム機をインターネットに繋げなければ、瑛太の不満はおさまらないようだ。玄関先で大騒ぎするのもどうかということで、全員でぞろぞろとリビングへ向かった。  最後にプレイしたのがゲームボーイ(かろうじてカラーだった)の広務には、最新の家庭用ゲーム機事情はさっぱりすぎた。ゲームをプレイするのにアカウントやらメールアドレスやらインターネット接続やら、まるでパソコンかスマートフォンの設定をするような必要があることすら知らず、香子の夫に教えてもらい、ようようのことでセッティングに成功した。 「これ、一日二時間以上プレイしたらメールでお知らせくるようになってますから」 「はあ……」  瑛太が一日に何時間ゲームしたところで、正直興味もなかったが、わざわざ解除するのも面倒でされるがままにしておいた。もし瑛太が二時間以上ゲームしたとしても、子供のしつけ初心者の自分が、瑛太を叱ることなんてできそうもない。  テレビコマーシャルでしか見たことのないタイトルのゲームを瑛太がプレイするのを朦朧と見つめていると、香子に袖を引かれた。 「これ、渡しておく」 「何これ?」  ファンシーな柄の薄型ポーチのようなものを手渡され、中身を見てもいいものかと戸惑った。 「それ、母子手帳入ってるから」 「母子手帳──!」  母親にとってとても大切な貴重品であろう母子手帳。とたんに手帳ケースの重みが増した気がした。 「い、いいの?」 「は?何が?」 「だってこれ、君にとって大切なものだろ?それを俺なんかが……」  いや、もしかしたら香子なりの決意の表れなのだろうか。瑛太をよろしくお願いします、という息子との決別に対しての覚悟──。  瑛太がお婿にいく際には、広務から瑛太へこれを、恭しく手渡すべきなのだ、きっと。

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