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ドアを開けるとすぐに香子が立っており、彼女の影にすっぽり隠れるように、背後に瑛太がいるようだった。
「えっと……、瑛太?」
香子の背後をのぞき込むように、広務は少し体を傾けた。瑛太がひょっこりと顔を上げると、ブルーのキャップのつばで隠れていた顔がのぞいた。
ああ、瑛太だ。
声をかけようとした瞬間、瑛太がぴょこっと右手をあげた。
「よっ!」
長い長い親子のブランクなんてまるでなかったかのように、気軽げに挨拶をする様子はなんだろう……、例えて言うならフーテンのトラさんかと思った。子供用の手提げ袋を肩に担ぐポーズがこれまた、まさにそれっぽい。
なんというか──、妙な貫禄というか、違和感を感じるのはなぜか。
別れ別れに暮らすようになってからというもの、瑛太と会話をする回数も減った。ここ最近はたまの面会の際であっても瑛太は携帯ゲーム機に夢中で、深い親子の会話を交わすこともなかったように思う。
自分が幼い頃は内気とまではいかなくても、少し寡黙な子供だった。絵を描くのが好きで、父親に反対さなければ美大に進学しようと思っていた。少なくとも自分の父親に「よっ」なんて挨拶をしたことはない。
自分の息子はきっと自分に似た子供に育つと思い込んでいた。この違和感は、父親として共に暮らしもしなかったくせに、瑛太に何かしらの期待を抱いていたせいだろう。
戸惑う広務を無視して、瑛太は香子の夫の元へ駆けよった。
「ねー!お父さん!スイッチ、ネットに繋げてくれた!?」
お父さん。瑛太は血の繋がらない香子の夫を、そう呼んだ。図々しい話だが、微妙に傷つく。
そっか、お父さんはそっちか。そりゃそうだよな、うんうん。
ショックを顔には決して出さず、広務は心を落ち着かせようとした。
「まだスイッチ出してないんだ。ごめんな」
「え~!今日と明日フェスなんだけど!じゃあ──」
瑛太が広務の服の袖を掴んだ。
「とうちゃん!」
「と、とうちゃん……?」
がーーーん、だ。今、自分、父ちゃんって言われた。
こんなセクシーでキュートな「とうちゃん」、どこにいる?
お父さんがダメなら、せめて「パパ」程度に留めておいてほしかった。とうちゃん、って……。バカボンのパパだって、「パパ」なのだ、なのに。
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