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 ここ最近、瑛太と暮らすための手続きやら引っ越しの準備などで忙しく、夜遊びする暇がなかった。ついついひとの旦那を不謹慎な目で見てしまっていて、いかんいかんと欲求を振り払うように脳内で激しくヘッドバンキングする。 「そろそろつくみたいですよ」  広務の後ろめたさなんか全く気づきもしない香子の夫は、スマートフォンを確認しベランダへと出た。 「おーい!ここだよ!」  ご近所迷惑なんて全く気にしないタイプなのだろうか、ベランダから道路に向けて声を張り上げぶんぶん手を振っている。見た目に寄らず脳天気な感じは、広務の好みとは全く違う。元妻と男の取り合いする可能性はないようで、ちょっとだけ安堵する。  大仰に手を振る男の後ろから、広務もそっとマンション下の歩道を見た。ゆるっとしたワンピース姿の香子の後ろをついて歩く男の子。  瑛太だ。 「えいたん……」  口をついて出たのは、赤ちゃんの頃の瑛太の愛称だった。 「えいたん?」  耳ざとく振り返った香子の夫へ照れ笑いでごまかし、広務は部屋の中に戻った。それを見計らったかのようにインターフォンが鳴らされた。 「どうぞ」  オートロックを解錠し、軽く深呼吸する。  ああ、どうしよう。これから本当の本当の、これまた本当に瑛太と一緒に暮らすのだ──!  生まれてからほんの僅かな期間だったけど、彼の成長を自分も見守った。色んな小さい瑛太が、走馬灯のように頭の中でフラッシュバックしていく。  再びインターフォンが鳴った。 「葛岡さん」  広務の不安を悟ったのか、さっきまで脳天気だった男がそっと両手で広務の肩を押した。 「はい……」  その手の温もりに勇気をもらい、広務は緊張しつつ玄関へと向かった。

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