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十歳の就寝時間は何時くらいなのだろう。とりあえず午後十時くらいでよいのだろうか。
「そろそろ寝よっか。瑛太の部屋にベッド用意できてるから」
ようやく自分の時間が始まる期待に胸膨らませ、瑛太を彼の自室へ誘おうとした。
「俺、ベッド、やだ」
「はい?」
「今日は畳の部屋で一緒に寝よーぜ!」
リビングダイニングから続く和室へ、ぐいぐいと思いのほか強い力で引っ張られる。
「な、なんで……?」
「今夜は一緒に寝たい、き・ぶ・ん。うふっ」
くねくねとオネエの如く体をくねらせる瑛太に、もう返す言葉も出てこない。広務はしぶしぶ和室に布団を二組敷き、いつもより早い就寝を余儀なくされた。
「ねー、俺さ~、俺さ~」
「うんうん。わかったから早く寝て……」
瑛太は新しい住居と同居人に大興奮でなかなか寝つけない様子だ。
早く寝てくれ、と祈りつつ、広務ははたと気がついた。もしかして今夜が親子で初めて布団を並べて眠る夜になるのではないか。
そう思うと興奮気味の瑛太が妙に健気に思えてくる。
「瑛太、こっち来る?」
広務は布団の端により、人ひとりぶんのスペースを空けてやった。
「えっ、いいの?」
久しぶりに触れる子供体温。その温 さに、広務のまぶたも下がってくる。
今まで一夜の相手と朝まで同じベッドで眠ることもあったが、こんな安心感に包まれたことはなかった。
「ンゴゴゴゴゴ、ンゴゴゴゴゴ──」
うとうとと夢とうつつの境目を彷徨っていると、突然、バキューム機能が故障した掃除機のような音で覚醒した。
「えっ……」
何事かとすぐ隣を見ると、それは眠る瑛太から発せられている。遮光カーテンのすき間から差し込む月明かりに照らされた寝顔はまるで天使のように愛らしいくせに、おっさんのような貫禄たっぷりのいびき。
そういえば瑛太は花粉症にかかっていると香子が言っていた。きっと鼻が詰まっているのだろう。
あまりの煩さに、広務は空になった瑛太の布団で寝ようと移動を試みることにした。
「う~~ん……」
その気配を感じてか、瑛太が寝返りをうった。弾みで「ぷぷぷぷぷっ!」と細切れに放屁し、運悪くそれは広務にかけられた。
「くっさ!」
これから始まる目まぐるしい毎日の幕開けを象徴している、そんな一日の終わりだった。
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