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瑛太に何かあったのだろうか。
広務は内心冷や汗をかいていた。どうして瑛太の学校の電話番号を登録していなかったのか、本当に失念していた。
心臓は激しくバクバクと脈打ち、広務の動揺を如実にあらわしている。
「葛岡さん、これどうぞ」
動揺を隠しきれない広務の手元に、椎名がスマートフォンを差し出した。画面に瑛太の通う小学校が検索されていて、電話番号が表示されている。
「息子さんのクラスと先生の名前、ちゃんとわかりますか?」
「ありがとう」
椎名があまりにも冷静沈着な態度で話しかけてくるため、広務はそれに引っぱられるように徐々に落ち着いた。
椎名のスマートフォンを受け取り、もう片手で自分のスマートフォンを操作する。
椎名が調べてくれたのと同じ番号、つまり瑛太が通う小学校からの着信履歴が一件あった。
社では仕事用の携帯電話が配給されていて、いつもそれを持ち歩く。逆に個人のスマートフォンを使うことはあまりなく、鞄に入れっぱなしにしてあった。
「五年四組の葛岡瑛太の父ですが、お電話いただいたようで……」
担任に取り次ぎを求める頃には、広務はいつもの冷静さを取り戻していた。それは広務の斜め後ろに、そっと控えるように立つ椎名のおかげだといえる。焦る広務を落ち着かせたのは、てきぱきと事態を仕切ってくれた椎名のおかげだった。
「息子さん、どうでした?」
広務が通話を終えると、忠犬のように待ちかまえていた椎名が尋ねた。
「ああ、ちょっと吐いたみたいだ」
担任の話では授業中、瑛太が気分が悪いと言いだし、自分の足でトイレに向かいそこで吐いたという。今は保健室で休ませているので、迎えに来てほしいとのことだった。
広務は時計を確認した。
今日は午後から取引先に伺わなければならない。担当変更の挨拶まわりに加え、毎年受注しているノベルティグッズについて軽い打ち合わせをするつもりだった。
「椎名くん、俺」
瑛太を迎えに行き、その後急いで取引先に直行すれば間に合うかもしれない。しかし椎名は広務に向かって首を振った。
「だめです」
「え?」
「こういう時のために俺がいるんじゃないですか。葛岡さんはお子さんを迎えに行き、病院に連れて行ってあげてください」
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