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エピソード2『ずっとずっと貴方が欲しかった』
「うっ、わあぁ――っ!」
バキィッ! と身体を支える木の枝が折れ、レイチェルの身体は重力に従いあっけなく落下した。
引っかかっていた黒い羽が落下と共に派手な音を立てながら木々を揺らす。
そして、レイチェルの華奢な身体は無惨にも石畳に叩きつけられたかに思えた。
しかし。
「いったぁ~いッ!」
どすんっ、と意外と柔らかい衝撃に、うーんと身を起こしながら、レイチェルは涙ぐんだ蒼い瞳を上げる。
鈍い痛みに背後を振り返って見れば、背に生えた黒い羽は擦り傷だらけでボロボロである。
「うあ~っ、さいあくっ!」
でも。
(あれ? もっと痛いかと思ったのに)
レイチェルは思わず自分が落ちてきた上を見上げた。
はらはらと葉が舞い落ちる中、ポカンと口を開けて思う。
あんな高いところから落ちたのに。
よくこれくらいですんだものだ。この地面が柔らかかったおかげだろうか……。
(って。え!?)
レイチェルはハタとその柔 ら か い 地 面 を見下ろした。
「……最悪なのはこっちだ。いつまで乗っかっているつもりだ」
すぐ下で冷ややかな声音が響いた。
低いけれどよく通る聞き心地の良い美声。
うんざりしたように乱れた漆黒の前髪を掻き上げた長い指先。
パラリと落ちた黒髪の間から覗く冷ややかな切れ長の青紫色 の眼。
(――――――ッ!!)
レイチェルは心臓が止まりそうな衝撃に、ただ目を限界まで見開いた。
(う、そ)
青紫色 の瞳に、目を限界まで見開いて口をパクパクさせている淫魔が映る。
漆黒の黒髪の男は、怪訝そうにそんなレイチェルを見上げた。
(ゼ……)
眉根を寄せ、迷惑そうに、微塵も甘さを孕まない冷ややかな眼差しがレイチェルの心臓を射抜いた。
(は、わ、はわわわわわ)
男は形の良い唇を開いて再び声を発した。
「おい。だから、退 けと言って――」
「――――ゼアスっ!!」
彼の低音は蒼い淫魔の歓喜の叫びに掻き消された。
「ゼアスっ! ゼアスっ! ゼアス――――ッッ!!」
「ちょ、待てっ! おいっ、何を――」
身を起こしかけた彼のしなやかでいて逞しい身体をドーンっ! と勢いよく押し倒し、レイチェルは嬉しさのあまり舞いあがり、思いっきり首ったまに飛びついて叫ぶ。
「ゼアスっ! ゼアスっ! 逢いたかった! ゼアス――――っ!!」
ぎゅうっと抱きついて首筋に顔を埋めると、クラッとするほどいい匂いがした。
ゼアス。ゼアスだ。
間違いない。
この薫り。この瞳。この気配。
出逢った頃よりも格段に美貌と魔力を増していようとも、間違えようがなかった。
レイチェルが百一年間想い続けた相手が、逢いたくて逢いたくて恋い焦がれた相手が、今ここにいるのだ。
心臓がはち切れんばかりにドッキン、ドッキンと高速でビートを刻み、顔がカーッと熱くなる。
なんでここに!?
理由なんかどうだっていい。
夢でも構わない。
なんだっていい。
ゼアス。ゼアスなのだ。
逢いたくて、逢いたくて、ずっと、こうしたかった存在が、今この腕の中にいる。
衣越しにも伝わってくるあたたかい鼓動が、夢ではないとレイチェルに告げていた。
離したくない。この手を。
泣き出したいような愛しさが込み上げて、胸がぎゅうっと切なくて苦しくてたまらなくなる。
(もう、ゼッタイに離さない。欲しぃ。……欲しぃよ。貴方がずっと欲しかった。オレは貴方だけに、ずっと、ずっと飢えていたのだから――――!)
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2026.5.6
ニコ
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