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第5話
なんとか1ホール目が終わり、その後の2ホール目も絹の球は真っ直ぐによく飛んで滞りなくゲームは進んだ。
3ホール目。ショート、パー3。
社長と彗がドライバー以外のクラブを取る。ここのニアピンも彗が取った。社長が悔しがる。でも手加減されないことが楽しそうだ。
そんな中、彗が打った瞬間、絹が「ん?」と思うことがあった。続いて社長が打ったとき、それを確信した。
何あれ、持ってない。……どうしよう。
レギュラーティーまで距離が短い。前の組の進行が遅いのもあり、遊び始めた社長がなつみちゃんとふたりきりでカートに乗って行ってしまうという意地悪なおふざけが発生。
彗と絹が置いてきぼりにされ短い距離を歩く。絹は社長が先に行ってくれて内心ホッとしていた。意を決して彗に話しかけた。
「すみません。さっき地面にくっつくくらい刺してたあのティー、アレなんですか?」
ふたりきりだ。そんなことも知らないのかとバカにされるだろうか。持ってきてないのかと呆れるだろうか。
「ああ、ちょっと待ってくださいね!」
すると彗がタタッと走って行ってしまった。
「え、ちょ……」
止まっているカートに行き、直ぐに走って戻ってきた。
「はい、ショートティー。さしあげます」
どうぞと笑って彗が五本渡す。
「え、えっ、いえそんな。じゃあ一本貸してください」
「いっぱいあるから大丈夫です。持って来ちゃったし貰ってください」
「……ありがとうございます。僕、ティーに種類あるの知らなくて、すみません……」
「あは、来てみなきゃわかんないですよこんなの。僕も初めてのゴルフのとき持ってなかったです」
上から偉そうに教えてくるでもなく、なんなら自分も知らなかったと目線を合わせてくれて。絹はホッと胸をなでおろした。
そんな絹はショートコースも初めてなのにワンオンし、パターはなかなか上手くいかないもののオッケー3パットのボギーで上がれた。
4ホール目もサクサクと進み、相変わらず前の組みに追い付いているのでのんびりゆっくりプレイした。
5ホール目。オナーは彗。彗の球は左フェアウェイに留まった。
次に社長。左から抜け出た球は良いかに思えたが社長が唸る。
「あー」
社長の球は右へグイッとフェードし過ぎて黄色い木の葉を散らした。
「紅葉綺麗ですね社長」
「絹、上手くいってるからって調子に乗ってるな?」
「すみません。ふふ」
「ん、ラフに落ちましたね。探せばあるでしょう、大丈夫!」
「というわけでなつみちゃんとふたりっきりで探してくるから、お前らふたりで進めとけ〜」
嬉しそうに言う社長に、またかと苦笑いの彗と絹。レギュラーティーに移動し、絹がドライバーでティーショットを打つと、左に引っ張り過ぎた。
「あ」
「絹〜初バンカーじゃん、ナイスイン」
「ナイスではないですよね社長」
「まぁ頑張れ。おい蟹江、ついて行ってやれ」
「わかりました」
全員でカートに乗り、バンカー手前で絹と彗が降りた。
「じゃあ俺探してくるわ」
「いってきまぁす」
「了解です」
社長となつみちゃんはまたカートを走らせ前に進んだ。そしてまた彗と絹がふたり取り残される。彗がいる心強さはわかったが、頼っていいわけではないし、社長となつみちゃんの姿が完全に見えない中でのふたりきりはやや気まずい。
球はバンカー奥グリーン寄り、わりと出やすそうな位置にあった。
「バンカーの打ち方わかりますか」
「球の下の砂に打ち込むであってますか」
「あってます」
「やってみます」
早く進めなくてはと、絹がさっさとバンカーに入ろうとした、そのとき。
「あッ、待って」
慌てたように彗が絹を止めようと掴んだ。咄嗟に出た手は絹の脇腹を捕らえた。
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
パッと手を離す。
「い、いえ……」
ひえっ、脇腹を、触られた。
ダウンベストを着ているとはいえ、絹はぐっと体を引き寄せられ距離が縮まりドキリとした。
い、イイ匂いがした。う、うわぁ……。
絹がどこのパフュームだろうと思っていると、目を合わせられず必死にバンカーに視線を向けた彗が言った。
「すいません、咄嗟に手が……あ、あの、バンカーは球から遠いところから入ってはいけないのですよ」
「え」
「砂の中を歩く距離がいちばん短いところまで移動して、なるべく低いところから入ります」
「そうなんですか、すみません」
「みんな最初は知らないですからいいんですよ、さぁ行きましょう」
そういうことか、何事かと思ったが俺のせいだったわ。ヒィ。すみません。
イイ匂いとか呑気なことを考えていた絹が頭から煙を出した。肩をすくめて球の横まで向かう。
「そこから入っていいですよ。肩の力抜いて、砂はかかるものだと思って思いっきり打ち込んでください。あ、クラブ短く持って!」
「わかり、ました」
肩に力が入っているのも見抜かれ、なんでもバレてしまうなと恥ずかしくなったが頑張るしかない。絹は深呼吸して、思いっきりサンドウェッジを振ってみた。すると、捲き上る砂と一緒にボールはフェアウェイにポーンと飛んで出た。
「ナイスアウト!」
絹はホッと息を吐き出し彗を見た。
「はぁ〜良かった、ありがとうございます」
「いえいえ僕は何も」
芝へ出てきて置いていた他のクラブを拾った。
直ぐに出て良かった、さぁ次に進もう!
意気揚々と歩き出したが彗の気配がせず、ふと後ろを振り向く。すると彗が絹の歩いた砂の足跡をレーキという大きな道具で平らに均していた。
「あ、す、すいません俺っ」
「や、いいんですよ。やっときます」
柔らかい笑顔で彗は答えてくれた。だがアドバイスして貰った挙句に後始末までさせてしまうなんてと、絹はとてもバツが悪くなった。彗が気にしないでください初めてなんだからと言ってくれる。
なんだこの人優しすぎだろ。俺が嫌ってるの知ってるはずなのに。紳士の極みだわ。てか紳士のスポーツ、自分の得意なゴルフだからだよな。
絹は胸がむず痒くなった。彗が絹のために優しく接してくれているのではなく、自分の好きなゴルフのために紳士に対応してくれているのだと思ったからだ。少しモヤリとした。
バカバカしい何を考えているんだか。
変な邪念を払おうと頭を横に振った。
一方、彗は心のメモ帳に〝真田さんのホントの一人称は「俺」。「僕」は営業用〟と記していた。こんな可愛いのに俺呼びなのかぁ、最高です、と心の中で拳を胸に当てた。
その後の前半は滞りなく終わりクラブハウスに戻った。
ランチタイムだ。人一倍動いた絹はかなりの空腹になっていた。
円卓のテーブルに真っ白いクロスがかけられていて、大きなガラス窓から入る光彩がその白をより眩しくする。
人口の灯りを売っている身のふたりだが天然の灯りの美しさには叶わないと思っているのが彗、ひとの造る灯りの方が好きなのが絹だ。実はふたりには決定的に違う面がある。照明器具への愛着だ。正直絹の方が高い。絹は夜が好きだ。夜の闇を優しくする灯りが好きで。反対に彗は昼間が好きでアウトドア大好き人間である。照明愛を語ったら確実に絹が勝つだろう。
秋の太陽が優しく照らすテーブルの上に運ばれてくる食事。絹はカレーライス、彗は天ざる、社長は夏が終わっても何故かまだある冷やし中華と炊き込みご飯のセットを食べていた。それから全員ビールも。
真田さんがカレー食べてる。無駄に可愛い。うわ、可愛い。か、可愛い。
彗は朝食で上品に卵かけ御飯を食べている絹を見ていた。その彼が空腹で必死にカレーをパクパク食べている。頬張っている姿を見て彗はキュンキュンが止まらなくなっていた。ルーと米をうまく配分して皿も綺麗に食べていく。育ちの良さを感じた。
社長は職業柄なのか食べるのが元々早くていちばん最初に食べ終わった。次いですぐ絹が食べ終わる。スプーンを置いてからずっと、彗が蕎麦をズズッとすするのを見ている。
完全な外国人顔、しかも端正な俳優顔が蕎麦を、海老天を食べている。不思議だ。
ビールを口にしながらチラッチラッとつい見てしまう。
食事そのものが小さく見えるなぁ。デカい手。麺つゆの器が超小さくてオモチャに見える。なんか……ウケるな。
絹のゴルフグローブの手袋は二十二センチだ。小さい。ずっと彗の手と足の大きさがとてつもなく大きいと思っていた。絹はついに聞いてしまった。
「蟹江さんホント手が大きいですね。グローブ何センチですか?」
「二十九センチです」
うおおデカイ! と、絹と社長が唸る。社長がそれじゃ足はと聞くと、靴は三十三センチと答えた。
「三十三センチ! スゴイ。日本にありますか」
「ないですね。あってもデザインが悪くて、海外で買うかネットで買いますね。日本にある海外ブランドの店舗に行ってもこのサイズはさすがに置いてなくて」
「ですよね」
絹は、ふと気付く。自分からなんてことはない雑談を彗に話しかけていたことに。サイズが気になったとはいえ。なんだか気を許し始めているなと自分でも気付いた。でも相手は俺に話しかけられてもいい気なんてしないだろうと、改めて身構える。だが今度は彗が話しかけてきた。
「真田さんは海外は行かれるんですか」
「いえ、全然。行きたいですが行く相手もいないので」
「コイツはよぉ、こんな可愛い顔して女っ気全然ないんだわ。仕事ばーっかしちゃって。蟹江、なんか言ってやれ」
「待ってください社長。俺この数年ずっと社長の見積もりと灯りプラン頑張ってたんですから!」
「そうだったゴメン、あはは。でもまぁ、今は昌明の方だけになったとはいえそれでも忙しいとは思うけど、海外に遊びに行くくらい羽伸ばすのも大事だと思うよ」
「そうですね、ヨーロッパ行ってみたいとは思っています」
すると彗が口を挟んだ。
「そっち方面得意ですよ。案内しますよ」
「ええっ、ホントですか。では機会があれば……」
このひとと、海外旅行。いきなり話が飛躍して。ま、社交辞令なのはわかってるけど。
彗なんかと行ったら知らない高いブランドばかり周って俺は何もわからなさそうだなと思った。セレブな海外旅行をしている姿が容易に浮かぶ。ファビュラスなどこかの姉妹みたいな巨乳知的美女を侍らせているのが頭にチラつく。ああ、お似合い、と苦笑した。
変な妄想を消し去るべく残りのビールをクイッと飲み干す。
絹が何を考えているかも知らずに、彗は彼が喉仏をゴクリと動かし飲み干すのを見て良い飲みっぷりと微笑んだ。上唇に白い泡がついて、白い髭が生えた。気付かずそのままだがそれでも可愛いと、目に入れても痛くないほど惚れているのを再確認する。膝にかけていたトーションで口を拭くのを見るのだって初めてだ。両手できちんと拭き、置いてから、水を口に含む。その絹の動きひとつひとつ、何でもかんでもキュンとする。
社長は前半のスコアを見ている。これまでにない良いスコアで後半への気合いが入る。なつみちゃんパワーだなとニンマリした。しかし彗のスコアを見てまだまだだなと反省する。彗が絹の面倒を見ているのに相変わらずの良いスコアなので感心した。
各々が全然違うことに思考を巡らせて一息ついていたら、あっという間に後半の時間が迫った。席を立ちレストルームに行き、インコースへ向かった。
後半戦。またも最初からドラコンコース。もちろん彗が取った。三百十四ヤードと相変わらずのかっ飛ばしだ。だがゆっくり振っているように見えるんだよなぁと絹は不思議がった。あと、丸くというより四角く振っているように見えてならない。ゴルフが終わったらその点についてネットでぐぐってみようと思った。
尚、彗は自分のスイングが見られているなぁと気付いていた。穴が開くほど見ていることに絹本人は気付いていないようだが。研究熱心でいいことだと、くすぐったい反面感心した。勉強熱心で素敵な青年だ、見つめているだけでこんなに楽しいなら片想いでもずっと好きでいたい。そう、心にじわりと想いを深めていた。
その後も着々と進み、ラストホール。絹がついにパーを取った。
「よっっっっしゃ! やった‼︎」
初めてのパーに手放しで喜んだ。社長もよくやったと頭を撫で回す。誰かに頭を撫でられたのなんていつぶりだろうか。
彗もにこやかに拍手してあげた。なつみちゃんがハイタッチを求めて来てつい笑顔で応じた。社長も彗もハイタッチしてくれた。
「すーっごく嬉しいです」
「お前すぐに上手くなるよ。さすが絹だ」
「すごく楽しいですゴルフ。またやりたいです」
そう言ってグリーンを出て社長とカートに向かうと、また彗の気配がなくて振り返る。するとグリーン周りに絹が忘れてきたサンドウェッジを拾ってきてくれていた。
「ああっ、すみません! 舞い上がってました……っ」
「あるあるですからお気になさらず。その為の僕です。初パーおめでとうございます」
「ありがとうございます」
なんだかとても照れた。テンションが上がっていたせいか「このひとも頭を撫でてくれたらいいのにな」と無意識に思った。クラブを拾ってきて貰っても罪悪感より甘えが強くなっていた。彗とのゴルフが終わって安心した反面、名残惜しいと感じた。
プレーが終わりクラブハウスに戻って風呂に向かった三人。自動ドアが開くと曇って隠れていたガラスの向こうが明確になった。
「クラブハウスの風呂ってこんなデカイんですか。変なとこのホテルより遥かに綺麗ですね」
「ここのゴルフ場は名門なんで特に綺麗なんですよ。でも大概大きくて気持ちいいです」
「ここ名門だったんですね。初めてでそんなところに連れて来て貰って良かったのかな」
「息子同然の大事な絹を変なところには連れて行けんからなぁ」
「本当にありがとうございます」
彗が横目で絹を見下ろす。薄っぺらくて細い肩が目の前にあった。自分の手で掴んだらスッポリ入ってしまいそうだ。真上から小さな乳首が伺えた。そもそも真っ白なので色素が薄いのか乳首の色が自分のそれとはだいぶ違った。
真田さん、ピンクは犯罪です。どこのお生まれなのだろう、東北かな。少し立ってるような……。
絹の半勃ちの乳首を見て口の中に唾液が溜まる。ゴクリとはできぬまま、そのまま視線を下ろすとうねりのないサラッとした陰毛が見えた。ペニスは微かにしか見えない。
いやいや、これだけで視覚的にヤバイ。これ以上見たら俺が勃つ。ダメだ。
そう思ったとき、絹がシャワーの場所を見つけさっさと行ってしまった。距離が離れて逆に真後ろの裸体が目に刺さる。小さく丸い尻から伸びた太ももがとても細く、股の間に揺れるモノが微かに見えた。
ぐっ、ホントにダメだ。
暗くて殆ど形など認識できなかったが、絹の男性器の存在を認知する。バサバサと長いまつ毛の小顔でもちゃんとイチモツが付いているのを知った。
当たり前だが……その事実がエロいんだよ俺にとっては。
彗は気を鎮める為にやたらと頭を洗った。
各々シャワーで汗をスッキリ洗い流す。こういうとき大概ひとより早いのが絹だ。サッサと洗って湯に浸かる。
「ぶあぁ………生き返る」
走って振って走って振って。一日中酷使した筋肉に沁み渡る。気持ちいい。
一息ついてチラリと浴場に目をやると、彗の背中を見つけた。大きいからすぐわかる。それと、肩甲骨と肩幅が日本人離れしている。これほどの逆三角形はこの国ではまだ目立つ。
全て洗い終わり、立ち上がって椅子と桶をシャワーで流す。絹は彗の脚を見て、ほぅっ、とため息を吐いた。細い脚だが程よく筋肉が付いている。膝下は少女漫画の如く長くて驚きだ。ふくらはぎは、思ったより子持ちシシャモと呼ばれる筋肉が発達していて。椅子と桶を重ねるのに前屈になると、脚が開かれた。嫌でも見えてしまう陰囊の大きさに胸がどよめく。
タ……タマでか……。
見入っているところに、社長が突然背後の湯へ入って来てザブンと音をさせた。絹はビクッとして振り返る。
「ハァーッ、生き返るな」
「お、同じこと思いました」
思考を切り替え返事したのもつかの間、
「蟹江は?」
「あ、あちらに……」
そう行って手を差し向き直ると、彗がタオルを絞りながらこちらへ向かって来ていた。タオルを手にしているので前が全開だ。
え、あ、で、でか……っ⁈
彗の男の象徴に絹が慄く。平常時で自分の広げた手の、親指から小指までの幅ぶんはある気がする。それがどんどん近付いてくる。視界にくっきり映ったそれは、しっかりとした長さを持ち根元はうねりの強い陰毛で茂っていた。
いんも……えろ、むり。真っ黒くない、んだぁ……。
「おふたりとも早いですね」
そう言って彗は社長と絹の向かい側に行った。邪魔にならないよう膝を立てている。大事な部分が見えなくなった。
「おう。俺は熱いの苦手だからもう出るわ」
「入ったばっかりじゃないですか社長」
絹がそう言うと社長が絹の額を人差し指でツンと押してニヤッと笑った。
「てかなつみちゃんと話があるから上がる。なのでお前らゆっくり入ってこい」
ならばと彗が、
「そうなんですか。わかりました、ではお言葉に甘えて」
と言う。絹も空気読んでゆっくり出て来いという意味だと解釈して、
「いってらっしゃい社長」
と送り出した。
ザバッっと立ち上がり出て行く社長の背を見送る。こちらは分厚くて違う意味で凄かった。こういう身体も嫌いじゃない。自分が小さいから大きな身体に憧れるのだ。
ふぅ、という吐息が聞こえ向き直る。すると、彗が長い脚を伸ばしてきた。
突然絹の伸ばした足先の真横に彗の足先が来る。隣に並んだ足は本当に大きかった。
足もデカくて、アソコもデカくて。本当に規格外。
じっと自分の足と彗の足を見ていた。
彗は絹の脚の付け根に見入る。サラッとした真っ黒い毛がふよふよと湯に浮く。その下の露わになった少し濃くなった肌色を見つけた。
こういうことを成人男子相手に思っては大変失礼なのは承知で思うが、やっぱり俺なんかと比べてすごく小さくて可愛い。
キュッと閉じられた三角地帯に収まっていて先端まで明確には見えないが、彗好みの愛でたくなるようなサイズ感だ。
あの小さいのを硬くコリッとさせ……そして先を親指で弾きたい。
彗が率直に欲求を募らせている。そのとき、彗の足に絹の足がトン、と触れた。
「ホント……大きな足ですね」
そう言って絹が足を横に付けてきたのだ。彗のいろんなところがギュンとなる。
「すごいサイズ差」
絹が少しはにかんで言うから胸にグッと来る。そのセリフを股間にも言って欲しいなんて無粋なことを考えた。が、なんとか邪念を振り払う。
「大きくても困ることばかりですよ」
そう返して絹と自分の足を見ていた。が、そのとき絹の股間がいつの間にか丸見えになっているのに気が付いた。
足を付けるため、絹が少し脚を開いた。それで股の間に絹のペニスがするりと落ち全体が露見した。先端の割れ目こそ見えないがカタチがもろにわかる。
ジーザス。こんなの……サービスが過ぎるよ神様。しかも足が触れている。触れたところが熱い。
絹がノンケだと思っている彗は、男同士なのに意識しているとおかしいと思われるので会話せねばと頭を動かす。
「真田さんはサイズいくつですか」
「二十五センチです」
「いいなぁ」
「大きいほうが、カッコよくていいです。……えいっ」
絹が彗の足を、自分の足でふざけてツンと押した。
我ながら、大胆なことを、始めてしまった。顔が熱くなってきた。
絹は足を横に並べるときも意を決して行動に出ていた。
今日一日共にして、優しくされて、ハダカを見て。正直ここに来てかなり甘えたい衝動に駆られていた。もう帰る頃だというのに。なので最後にちょっとだけ、ちょっかいを出してみた。ほんの出来心だ。反応を見てみたかった。
そしたら今度は彗が、ははっと笑って絹の足をツンとしてきた。
「真田さん、初ゴルフどうでした?」
「すごく楽しかったです。蟹江さん……ありがとうございました。いろいろと面倒見てくださって」
はぁっ、素直に言えた。このひとの前ではそうなれないでいたから。
絹は自分に対して心の底から安堵した。
「楽しかったなら良かったです。初めてのゴルフで嫌になってしまうひとも結構いるから」
「そうなんですか。蟹江さんがわからないこと優しく教えてくださったので、楽しくできました」
めちゃめちゃ素直になれてる。上出来だ。
絹は心の中で自分を褒めた。これまで大嫌いだったとはいえ世話になったひとにはちゃんと礼儀をわきまえなくてはと、自分に対して大人になって欲しいとも思っていた。
更には相手が真摯な男だと知って、感謝しなくてはと思った。それがただ社長に命じられた子守みたいなものだったのだとしても。自分だから優しくされたのではなく、このひとが大切にしているゴルフというものを快適に過ごす為だったとしても。
それでもいいんだと、ちゃんと言えたぞと胸をなでおろした。
彗は絹がこんな風に真正面から改めて礼を言って来ると思わなくて面食らった。自分が嫌われているのを知っていたからだ。
昌明ともいっしょにゴルフに行ったりするくらいには仲が良く、それは昌明から聞かされていた。社長の一存でリリージュエルが入ってきて仕事を取られたから不服に思って彗を嫌な奴と思っているが、同じ営業なら気持ちはわかるだろう、悪いやつではないから許してやってくれと言われていた。
それなのにこのひとを好きでいることをやめられなかった。初めて見た瞬間からキュートだと思った。中身なんて何も知らないのに遠くから見て恋していた。
けれど今こんなに急激に距離が縮まっている。これは少し仲良くなれるチャンスなのではないか? そこまで嫌われていないんじゃ。これは今なのではないか。
「真田さん」
彗が玉砕覚悟で切り出す。
「今度、ふたりでラウンドしませんか」
絹が目を丸くする。
「練習ゴルフ。ツーサムでゆっくり回って、社長たちと行くのにもっと気持ちが楽になるように。良かったらちゃんと教えますよ」
うまく下心出さずに理由つけて誘えたかなと彗がドギマギしている。
絹は大きく息を吸って、
「はいっ……行きます‼︎‼︎ 」
ちょっと大きな声になってしまい恥ずかしかったが、笑顔で返事した。
それって俺のことイヤじゃないってことだよな、ふたりでって。今日のゴルフも……俺のために優しく教えてくれてたんだ? やばい、思い上がっちゃいそうだ……。
「蟹江さんLINE教えて貰えますか」
「もちろんです。じゃ、そろそろ上がりましょうか。忘れる前に交換しましょう」
「そうですね」
彗と絹は湯から上がると体を赤く火照らせていた。湯当たりではなく、胸の高鳴りで熱くなっていて。だがお互いノンケだと思ってそんなことには気付きもせず。それでも互いを求めてタオル一枚でスマホを向かい合わせた。今日のゴルフがふたりをここまで結び付けることになるなど、本人たちがいちばん思っていなかった。
第五話・終
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