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「なー、一緒に死のうよ三浦 」
「やだ」
即答のわりに面倒臭そうにのろのろした動作で俺を見た三浦は、表情も声色も至って普通だった。
驚くでもなくヒくでもなく心配するでもない、慣れてるって対応。まーたこのバカなんか言ってらぁって表情だ。
そんな三浦の顔を見て、好きだと思った。顔のつくりとかじゃなくてそのあしらい方とスタンスがだ。いやウソ顔も超好み。とにかく俺はこの三浦という男が好きだ。勿論そういう意味で。
俺は手にしていたシャーペンをテーブルへ置いた。
「えー、なんで?」
「逆になんでよ」
三浦が解いていた物理の課題プリントの設問にはまだ空欄があるけれど、三浦も俺と同じようにシャーペンを置いた。向かいのテーブルで頬杖を付いて、プリントの代わりに俺の顔を覗き込む。
なんで、か。なんで三浦と一緒に死にたいか。
俺は、書きかけの進路希望調査票をフローリングに捨てた。そして三浦の動きを真似るように三浦を見つめた。
「んー。俺的にこの世界はさ、生きづれーなって思うんだよね」
「長沢 、17年しか生きてないくせに」
「いやーさー……。だってほら、三浦あとどんくらいで帰る?」
「一時間半ってとこ」
「あー無理。ほーらだめ。俺17年生きてて今一番つれー、かあーつらすぎ。今日泊まってって三浦」
「だぁからさっきも言ったけど僕今日もお前んち泊まったら四連泊なわけ。週の半分。さすがにやべーっつったべ?もうそろ一旦帰んねえと親うるせんだよ」
「それもさー…。俺が女だったらいーわけじゃん?『友達んちで遊ぶ』じゃなくて『彼女との愛の育みの時間』だったら三浦の親だって普通に許してくれんじゃん?」
「あほかよ。余計許してくんないわ」
「えーそう?じゃあ『僕ホモです今日彼氏のとこに泊まってきます』って言ったらワンチャン快諾あり?」
「いやそれはそれで許しゃしねぇわ」
「あー……。はあー。やっぱ生きづれーこの世界。あー死にてー」
改めて俺は深く溜め息を吐く。
と、三浦がテーブルに手を付いた。プリントに盛大なシワを付けながら身を乗り出す。
察して俺が目を閉じるとやっぱりキスされた。
押し付けられる唇は柔らかい。三浦とのキスはそれだけで身体が熱くなる。
けれど今の状況じゃあ、この熱は一瞬で燃えて同じくらい早く冷える。三浦がわざとらしく響かせたリップ音は虚しさを彩るだけだった。
「あんね?僕も別に帰りたいわけじゃないかんな?」
「なー、みうらぁ、寂しい」
「んなの言ったら僕だって寂しんだけど」
寮生の俺と違って三浦は通いの生徒だ。
どれだけ引き止めても、今日のようにどうしても自分の家へ帰ってしまおうとする。
うちの寮の制度では、寮外の生徒が寮生の部屋へ宿泊することは禁止されている。でも正直別にばれない。
だから俺は三浦をしょっちゅうこうして自室へと連れ込んでいる。
優良な学業成績と部活実績まで積み上げ、一年と二年の寮生へは基本的に二人部屋が充てられる制度をくぐりぬけ勝ち取ったこの一人部屋。なんのために頑張ったって三浦のために頑張ったんだ。
なのにそれでも、三浦と四六時中一緒に過ごすことは叶わない。
いやむしろ、時間を重ねれば重ねるほどこの時間は終わりへと近づいている。
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