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――べちっと頬を叩かれ、俺はすぐに目を覚ました。
と同時に思いっきり咳きこんだ。一気に入ってきた酸素に縋ってゲホゲホやってしまうあたりこの身体は意識と裏腹に生きたがる。
三浦は、俺の呼吸が落ち着くまで背中を撫でてくれた。
「……大丈夫。長沢がほんとにどうしても駄目だったそのときは、ちゃんと殺してやるし、死んでやっから」
「あ……。み…うら……」
焦点がいまいち合わない。ぐわんと頭痛が襲う。凄い。凄い。
片手でオとされて声を上げる暇もなかった。
あのまま絞め続けられていたら。起こしてくれなかったら。
……三浦は本当に俺を殺せる。
単純にも俺はそれを知れただけで舞い上がっていた。
「あー……。……三浦、好き」
でも。なのに。どんだけ努力しようが、あと一年後には此処から俺も三浦もいなくなる。この特別な空間は無くなってしまう。
この狭い部屋を出なければ行けない。
しかし広い世界は、そのくせこの部屋よりも随分狭いんだ。
不意に、三浦は自分が記入していたプリントを見せてきた。
てっきり物理の課題プリントだと思っていたのに、それは俺が捨てた進路希望調査票だった。
氏名は確かに俺が自分で書いたものだ。しかし他は全てまっさらな未記入だったはず。
しかしそれがいまや第一希望から第四希望まで全ての欄がそこらへんの大学名できっちり埋まっていた。三浦の筆跡で。わけがわからない。
「そうなー、卒業までは優等生頑張ってよ長沢。僕、この部屋で長沢といちゃつくの結構好きだし。で、卒業したら車買お」
「んー?カーセクでもすんの?」
「ははっ、うん。そう。んでヤりながら練炭焚こな」
三浦は穏やかな微笑みを浮かべ、優しく俺の髪を撫でた。
いつの間にか溢れ出た涙が俺の頬を伝う。バカらしくて嬉しくて涙が止まらない。
有限に思えた時間は、既に無限だった。
三浦はこの部屋が無くなっても、永遠にこの時間を守ってくれるつもりだった。
「一緒に死のうな、長沢」
俺は頷いて、嗚咽を漏らした。
-了-
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