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Ⅱ 俺と大使と総理①

パパは、ほんとうのパパじゃない。 俺は受精卵をゲノム編集されたΩ型βだ。 ヒトの性別は、外見上の第1性である雄と雌。 生殖に関わる第2性のαβΩで決まる。 Ωは排卵する卵子に、αかβの精子を受け取って受精する。 俺は、雄のΩ型β Ωの受精能力があり、本来βの持つ放精能力がない。 βとして産まれる受精卵の遺伝子に手を加えて、Ωにしたんだ。 俺は母を知らない。 父も知らない。 パパをパパと呼ぶけれど、怖くて聞けないんだ。 『俺はパパの精子で産まれたんですか?』……って パパも教えてくれないから、受精卵の精子はパパじゃないと思う。 Ω型βの研究は倫理上の観点から禁止になり、この国で居場所のない俺をパパが引き取って育ててくれたんだろう。 ……きっと、そうだ。 だから俺のパパは、ほんとうのパパじゃない。 ……って思う。 「……知ってるよ、君が私を嫌っているのは」 潤んだ黒瞳が俺を見つめている。 ちがう。 潤んでいるのは、俺の眼が涙をこぼしそうだから。 「でも私は君が好きだよ」 どうして? ……どうしてって? 「パパだからさ」 瞳の闇色の奥に引きずり込まれていく。 「パパは我が儘なんだ。ごめんね」 あなたはズルイ。 嫌いだと言われて喜ぶ人間はいない。 嫌いという言葉は、人の心に泥水を注ぐ。 嫌いって言われたら、その人を嫌いになる……のに。 (どうしてッ) 笑ってられるんだ! ねぇ、俺を嫌ってよ! どうして見せてくれないの。 あなたの本音 柔らかな笑顔の仮面で覆って、隠して、どうして本当の気持ちに触れさせてくれないんだッ 俺が、あなたの子供じゃないから?…… あなたが嫌い 涙を落とした拳を包む、あなたの温もりが優しくて…… 俺はあなたを嫌いになる。

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