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Ⅱ 俺と大使と総理⑥
日本国が俺の所有物 になった。
大使が日本国を購入してしまった……
一括払いで。
……たぶん、一括払いだ。
……ん?どこに支払うんだ。日本国購入代金?
「櫂。君は今日から総理の伴侶だ」
「はぃ~??」
「日本国 内閣総理大臣 益城省吾が君を妻に娶 る。国の頂点に立つ総理のファーストΩになるんだ。日本国は君のものだよ」
「待てーッ」
日本国の代金は俺ェェェー★!!
代引で日本国お買い上げ。
メチャクチャだ。そんなの!!
第一、総理はっ
益城総理の気持ちはどうなるんだっ
「奥津 櫂君、君を幸せにしよう」
「……ぇ」
「これからは櫂と呼ぶよ。我が伴侶 ファーストΩ」
チュっ
優雅な仕草で俺の左手を取ると、唇を落とす。硬質な仮面の冷たいキス。
「リングは後程贈ろう」
リングって……
「無論マリッジリングだ」
秀麗な指先が薬指をなぞった。
「君を永遠に愛する証だ」
俺は……
君は……
日本国 第99代内閣総理大臣
「益城 省吾の妻になる」
漆黒の仮面が見つめている。
仮面の眼が。
その色も、形も
鋭いのか、柔らかいのか
情熱的なのか、政略か
真実なのか、虚偽 なのか……
見えない。分からない。
なに一つ、なにも感じない仮面の双眼が俺を見つめている。
「異論はないね、益城 櫂」
奥津じゃない。
益城になるんだ。
俺は総理と結婚するから。
(俺は……)
「幸せにして貰うんだよ、櫂」
どうしてっ
そんな事を言うんだ。
俺が「嫌い」って言ったから。
だからなのか。
それがあなたの『本音』なのか?
パパ……
笑っていない、あなたの貌
なぜ見てしまったのだろう。
「行こうか、櫂。総理官邸を案内しよう。私達の新居だ」
(俺は……)
「……奥津 櫂です」
「かー君!」
「櫂」
二人の声が重なった。
「私との婚姻を拒む……と?」
「あなたとは結婚しません」
心臓がバクバク打ちつけて、悲鳴を上げる。鼓動が破裂しそうだ。
益城総理は強烈な光
この国を照らす絶大な未来である。
……俺は、未来に逆らった。
益城 省吾という太陽に
無言の重圧が肌を焼く。
相貌の読み知れぬ仮面に気圧されている。
「承知した」
「総理ッ」
漆黒のロングコートが翻った。
大使を制した右手が空を刺す。
私が国家だ
「我が命令を侵す者を捕らえろ」
風が薙いだ。
ザッ
靴音が取り囲む。
硝煙が鼻孔の奥まで燻った。
一斉に向けられた、黒い銃口
「抵抗すれば射殺する」
罪名は国家反逆罪
「連れて行け」
背後
首の根元に強烈な電流が走った。
意識が落ちる。
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