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「聖には渡さない」
結局、学校を早退することにした。
聖から何度も着信があったが、今は声を聴きたくなかった。
双子だけあって、電話越しだと同じ声に聞こえる。今、あの声を聞いたら泣いてしまいそうだ。
だけど心配をかけたままになってしまうので、メールを送ることにした。
体調が悪くて早退した事、今まで寝ていたと嘘をついた。すぐに返事が送られてきて、その文章から、相当心配をかけてしまったようだ。
「ごめんね、聖」
スマートフォンを握りしめ、そのまま小さく丸くなる。
だけど頭の中に浮かぶのは聖ではなく、洸のことだった。
嫌いだから正直に答えた。それなのに、どうしてこんなにモヤモヤするのだろう。
「どうして、俺を苦しめるんだよ、洸」
心を落ち着かせようと、傍に置いてあるお香を取り出して焚く。爽やかなにおいを、いっぱいに吸い込む。
聖の笑顔、頭を撫でられたときの心地よさ、美味しいお弁当、ひとつずつ大好きなものを思い浮かべていくが、唇の感触、絡みつく舌、切なげにリオを見つめる洸の表情となる。
「どうして」
口元を手で覆い隠し、小刻みに震える。
嫌だったはずなのに、あの時の熱を求めている自分がいる。
「そんな筈はない!」
洸のことなんて、何とも思ってない。 自分自身を否定するように、違うと言いながら首を横に振るい続ける。
「俺は、アイツの事なんて……」
そんな時、来客を告げるチャイムの音が聞こえ、聖が来たのだと、助けを求めるようにドアを開いたが、そこに立っていたのは、同じ顔をした、今一番、会いたくない相手だった。
すぐにドアノブを掴んでドアを閉めようとするが、それよりも早く、相手がドアを掴んでそれを止めた。
両手で引っ張っているというのに、片手でドアを掴んでいる洸に敵わない。
力負けをしてしまい、リオは仕方なく洸の前に俯きながら立った。
「なんで来たの」
嫌いだと告げたのに、よく顔をだせたものだ。
「弁当を届けに」
と、風呂敷を開き、重箱を見せる。
「ありがとうって言っておいて。もう、用はないよね」
それを両手で受け取り、感情のこもらぬ声を出す。出ていってと目で訴えるが、洸は突っ立ったままだ。
リオは無視して部屋へ戻ろうとしたが、腕を掴まれて引き止められた。
それに驚いて手を払いのけようとするが、洸に引き寄せられて腕の中へと囚われてしまう。
「何をするの」
洸の温もり。
「お願い、俺を嫌わないで」
「嫌っ!」
声が重なり、腕の中から逃れようとした時に、弁当が落ちてしまい中身が飛び出して床に散らばった。
「あ……」
聖の作ってくれた弁当。リオの為に好物ばかりを詰めてくれたのだろう。
「離せっ、お前のせいで、聖の作ってくれたお弁当が」
力いっぱい洸を突き飛ばし、一瞬、身体が離れたが、すぐに抱きすくめられて唇を奪われた。
「んっ」
「聖には渡さない」
と、玄関の床に押し倒された。
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