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保健室で

 すこぶる体調が悪い。苦手な朝、しかも寝不足が影響していた。  そんな日に限って、目の前に洸の姿を見つけてしまった。しかも、隣には女子の姿があり、楽しそうに歩いていた。  聖と洸は背が高くてかっこいい。そう女子が話しているのを耳にしたことがあるし、実際に二人はモテる。  同じ男として羨ましい部分ではあるが、だからといって特に何か思う事は無かったのに。  プレゼントの事で洸の事を考えすぎていたからだろうか。  動悸が激しくなり、シャツを掴んで苦しみに耐えようとするが、眩暈で立っていられなくなる。 「大丈夫ですか」  傍にいた生徒が、リオに声を掛けた。 「だいじょうぶ……」  それに気が付いた生徒が足を止めはじめ、このままでは気が付かれると思い、歩き出そうとするが、力が入らなくて倒れそうになったが、 「リオちゃん、大丈夫!?」  腕が回り、リオを支えた。  誰のものか、嫌でもわかる。気づかれたくない相手だから。  リオは離してと口にするが、目が眩んで、その場から動けなくなってしまった。  洸がリオを抱き上げる。 「いやっ」  洸に触れて欲しくない。そこから逃げ出そうともがくが、 「頼むから、大人しくしていて」  と、洸が辛そうに顔をゆがませていた。  そうさせているのはきっと自分。リオは力を抜くと洸に身を任せた。  それに気が付いたのだろう、洸は急いで 保健室へと向かっていった。  保健室にはまだ養護教諭の姿はなく、洸がつきそう。  暫くの間、安静にしていたら眩暈が収まった。 「平気だから……、もういいよ」  側に居られると落ち着かないから教室に戻ってほしい。  それなのに洸は、心配だからと保健室に居ようとする。 「いいから、戻って」  布団をかぶり、洸を拒絶するような態度をとる。そうすれば解ってくれるだろうと思っての事だ。 「そんなに嫌?」 「……え?」  今まで態度で示してきた。それでも今までハッキリと口にした事は無かった。  その通り。それなのに、いざ口にされて動揺してしまった。  布団から顔を出すと、直ぐ近くに洸の顔がある。  それに驚いて顔を離そうとすれば、再び顔が近づき、唇に暖かいものがふれた。 「んっ」  キスされている。それだけでも驚きで頭の中は混乱しているのに、身体は熱を帯びていく。  歯列をなぞり、舌を絡ませながら、何度も角度を変えて口内を味わうように吸い付く。  あまりの荒々しさに呼吸がついていけず、息があがってしまった。 「はぁ、やだ」  どうしてこんな事になっているのだろうか。自分は女子じゃない。  じわりと目頭が熱くなり、あふれた雫が流れ落ちた。 「俺じゃ、駄目かな」  何が駄目だというのか、洸の言葉は更にリオを困惑させる。 「駄目って、何」 「聖が好きだって解っている。だけど、俺はリオちゃんが……」  聖の事は確かに好きだけど、それは友達としてで、それ以上の感情はない。 「なんなのっ、もう出ていってよ!」  これ以上、変な事を言いださないうちに出て行ってほしい。 「俺の事、そんなにきらい?」  切なく、吐きだされた言葉に、リオは思わず洸の方へと顔を向けた。  きらいに決まっている。無理やりキスをしたくせに。  それなのに、洸の、今にも泣き出しそうな顔を見ていたら胸がしめつけられた。 「きらい、だ」  そう、絞り出すように口にすると、今度こそ洸を拒絶するかのように布団をかぶった。 「わかった。聖に連絡したから。ゆっくり休んでね」  というと保健室を出て行った。

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