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強引に誘われて
洸が居たけれど、聖と一緒に過ごせたことは嬉しかった。
勉強をみっちりとやらされた時は流石に頭が疲れてしまったけれど、聖が美味しいココアを入れてくれた。
そして、川の字になって寝た時も、小さな頃を思い出して懐かしかった。
次の日、昼には帰るというのでバス停まで送ることにした。
だが、バスに乗ったのは聖だけ。残った洸に、思わず、
「なんで」
と呟いていた。
「俺は用事ないから。リオちゃん、遊びに行こう」
冗談じゃない。リオは家に向かって歩き出すが、手を掴まれて引き止められた。
「ちょっと」
「リオちゃん、お香、気に入ってくれたよね。姉ちゃんの店に行こう」
「え、やっ」
なんて強引なんだ。
力では敵いっこなく、引っ張られるがままとなる。
「ちょっと、藤間」
向かった先は繁華街の、女性向けの可愛らしい雑貨が売られている店だった。
「あら、洸じゃない」
綺麗な女性定員が声を掛けてきて。聖と洸に似た雰囲気があり、もしやと顔を向ければ、
「姉の志保 」
だと紹介される。
「はじめまして。貴方がリオ君ね」
話では聞いているわよと、ふわりと優しい笑みを浮かべた。とても綺麗な人で、照れて頬が熱くなる。
「はい。聖に志保さんの事は聞いてます」
「あら、そうだったのね。洸からは?」
「美しくて優しい姉だと、話しております」
「よろしい」
姉には洸も俺も頭が上がらないのだと、聖が前にそうリオに話してくれた。
仲睦ましい姉弟。そんな二人に、リオは自然と笑顔になる。
「あら、やだ、可愛い」
うちの弟は大違いだわ、と、頬を撫でられた。
「きゃ、肌、つるつる。髪もサラサラで綺麗ねぇ」
今度は髪を触られて、綺麗な女性にこんな風に触られたことなどないのでドキドキとしてしまった。
「ちょっと、姉ちゃん、セクハラ禁止」
洸が志保から奪い取るように、リオを自分の後ろへと隠した。少し残念な気持ちとなるところは、やはり男だなと思う。
「あんっ、残念。そうだ、お香はどうだった?」
と志保が顔を覗かせる。
「はい、とても気に入りました」
「洸ったら、珍しく真剣でね。気に入って貰えて良かったわね」
「わー、姉ちゃんっ」
洸が様子を窺うようにこちらを見る。
プレゼントは相手を思って選ぶものだが、つれない相手に、そもそも心のこもった贈り物をしたいと思うものなのだろうか。
洸は一体、何を思ってリオに贈ったのだろう。
黙り込んでしまったリオに、
「困らないでよ。ほら、折角だし、別のお香でも見よう、ね」
と洸の手が肩に触れた。
「うん、そうだね」
「案内するわ」
志保に案内され、お香が置かれているコーナーへと向かう。
意外と種類がある。この中から洸は自分の為に選んでくれたのか。
大変だっただろうなと、考えにふけそうになった時、ツンと鼻をつく。
「うっ、すごいにおい」
あまり好みではない香りに、リオの顔がひくつく。
「姉ちゃん、臭いよ」
鼻を手の甲でおさえながら顔をしかめた。
「あはは、あまり好みじゃなかったようね」
どうやら、この反応は予想通りだったようで、志保はしてやったりといった表情を浮かべていた。
「ん、リオ君が難しい顔していたから」
と、自分の眉間に指を押さえ、それからニコリと笑う。
洸の事を考えていて、眉間にしわが寄っていたのだろう。
だけど、この匂いを嗅いだ瞬間、考え事が消し飛んだ。
「これね、若い女子には人気なんだよ」
これが、と、口に出そうになったが、確かに、甘めな香りなので女子は好きかもしれない。
「ありがとうございます」
志保の心遣いに、リオは聖のような暖かさを感じる。
「てことで、私からのプレゼント」
何種類かのお香が入ったお試しセットだった。
「え、これ」
「リオ君と会えた事が嬉しかったから、贈りたいの」
とリオの手を掴んでウィンクして見せた。
そんな風に思ってくれたことが嬉しい。このプレゼントにはそういう心がこもっているというわけか。
「志保さん、ありがとうございます」
「また来てね、リオ君」
笑顔を浮かべる志保に、 リオはまた来ますと答えて店を後にした。
洸と別れて家に帰り、貰ったお香をカバンから取り出す。
志保のプレゼントの意味はわかった。だけど、洸の方は全然わからない。素直に聞けばよかったのだろうか。
なんともモヤモヤとする。余計にそれが気になってしまって、結局、その日は一睡もできなかった。
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