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プレゼント

 待ちに待った金曜日。そのはずだったのに、リオは居心地の悪い思いをしていた。  ファミレスで待ち合わせをしたのはよいが、目の前に座っているのは聖ではなく洸だった。 「ごめんなー、リオちゃん。俺までお邪魔することになって」  勉強をするなら洸も一緒に良いかと聞かれ、本当は嫌だったのだが、聖のお願いを断る事もできずに良いよと返事をしてしまったのだ。  話しなんてしたくないのに、話しかけられて鬱陶しい。相手にしたくないので本を読んでいようと鞄に手を伸ばすが、 「リオちゃん、お香って好きかな?」  と聞かれるが、お香を焚いた事など一度もない。だけど興味はあったので肯定するように頷くと、目の前にお香を焚く道具とお香を並べた。 「どんな香りなの?」 「リラックスできる香だって」  小さな紙をリオに手渡す。そこにはお香の効能と炊き方が書かれていた。  何故、これをリオに渡したのだろう。洸がお香に興味があるようには見えない。だから不思議に思う。 「姉ちゃんから、リオちゃんにって」  聖と洸の姉は雑貨屋の店員をしており、リオにプレゼントをしてくれたらしい。 「そう。ありがとうって言っておいて」  香を手に取り、鼻を近づける。爽やかなにおいがした。 「いいにおい」 「気に入って貰えたら嬉しいな」 「家に帰ったら焚いてみるよ。楽しみだな」  自分でも驚くくらいに、洸の前で素直に感情を表すことができる。  それに、こんなに話しをした事など一度もないだろう。  今まで目を合わせなかったのに、ふい視線がぶつかり合う。それに気がつき、ふわりと微笑む洸。リオはいつものように胸が苦しくなって、胸元をぎゅっと掴んだ。 「リオちゃん、気分でも悪いの?」  それを見ていた洸が立ちあがり前屈みとなる。 「だい……、じょうぶ、だから」  肩に洸の手が触れる。鼓動が激しくなり、心を落ち着かせようとするけれど余計に息苦しくなってくる。  このままではいつもの発作を起こしてしまう。トイレに逃げ込もうかと思った、その時。 「お待たせ」  と、後ろから聖の声がした。  リオはホッと息を吐き、肩から洸の手が離れる。  今まで感じていた熱が離れ、ホッとしたのと同時になぜか胸が痛んだ。 「行こうか」  待たせたお詫びと、聖が伝票を持って会計へと向かう。 「待って」  また洸と二人きりになるのが気まずくてリオは聖の後を追った。  右には大好きな人。左には苦手な人。  二人とも同じ顔をしているのに、どうしてこんなにも感じ方が違うんだろう。  複雑な気持ちのまま、洸から貰ったお香を取り出して焚き始める。ふわりと爽やかなニオイがしてくる。 「へぇ、良いにおいだな」  このお香の事は聖も知っていたらしい。 「うん、さすが姉ちゃんだな」 「これ、洸がリオにプレゼントしたいって、姉貴に選んでもらったんだ」 「え……?」  洸は姉からだと言っていたのに。 「聖、秘密だっていったじゃんっ。リオちゃんが困っちゃうでしょ」 「困るなんて……、そんな事ないよな?」  リオはどうにか頷いてはみたものの、頭の中では困惑していた。洸の意図が解らないからだ。 「だから言ったのに。ごめんね、特に意味はないから」 「そう、なの?」  本当に意味がないのか。聖に助けを求めるように見つめるが、 「洸がそう言うのなら」  ちらっと洸へ視線を向けた後、苦笑いを浮かべて頭を掻いている。 「……うん」  結局、その話はうやむやのまま、別の話題になった。

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