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act.00 Costretto a letto Lion―寝たままの獅子―
20XX年4月4日午後2時43分
イタリア南部
プーリア州バーリ
アドリア海に面し、観光客で賑わうその都市から少し外れた通りの路地に、ひっそりと建つ古びたアパート。
住人などいるのだろうかと思ってしまうくらいに辺りには物音1つしないそんなアパートの一室で、寝たままの獅子―アレッシオ・トラヴェルサ―は何時もの如くシエスタを楽しんでいた。
彫りの深い顔。少し肉厚な見る者の情欲をそそる唇。
閉じられた瞼の下には色素の薄い蒼の瞳が隠され、高い鼻梁は折れること無く真っ直ぐに伸びている。
男らしいラインの顎の上には、無精髭がまばらに生え、少し癖のある猫っ毛の髪が寝癖ともつかずあちらこちら跳ねていた。
だらしない部分に目を瞑れば美丈夫ともいえる容姿のアレッシオは、閉め切られた部屋のカーテンの隙間から差し込む昼の目映い光を避けるように狭いベッドの上でゴロンと寝返りを打った。
そのせいで、ハラリと申し訳程度にかけていた毛布がベッドの下へと落ち、アレッシオの身体が露になる。その身体は、30代半ばを過ぎようかという年齢の割りに余分な脂肪は見受けられず、しなやかな筋肉が全身を覆っていた。胸元も厚く、腹部に至っては見事に6つに割れていた。
まるでギリシャ彫刻のように美しい肉体美。それが、埃っぽく、寝返りを打つたびにギシギシと鳴る狭いベッドの上に器用に収まっていた。
余程深く眠っているのだろう。安らかな寝息と規則的に上下する胸が、それを物語っていた。
と、アレッシオの寝息だけが響く極めて静かなアパートの一室に、リリリリリリ、とけたたましい音が鳴り響いた。音の発生元はアレッシオが微睡むベッドの枕元。黒のシンプルな携帯からだった。
「……っ、うるせぇ」
至近距離で鳴り響く着信音には、流石のアレッシオも目が覚めたらしい。寝惚け眼で手をさ迷わせ、不機嫌な顔で携帯を手に取るとベッドに突っ伏したまま電話に出た。
「…………よぅ」
『……アレッシオ、貴方また寝ていたんですか?』
出た途端に女性らしい高い声に小言を言われ、アレッシオは眉間に皺を寄せた。
「別にいいだろ?いつ寝ようが俺の勝手――」
全てを言い終わらないうちに、女性の声が彼の声を遮った。
『勝手は許されません。貴方のカポから至急の用件があるそうですわ』
「は? カポから?」
カポからの用件と聞いて、アレッシオの顔色がサッと青ざめる。内容は分からないが、この時既に嫌な予感がひしひしとしていた。
『場所はレッチェのサンタ・クローチェ教会前。詳しくは先に現場に向かわせた貴方のアソシエーテにお聞きになられて下さいまし』
不穏な予感に固まったままのアレッシオを置いて、用件を伝えきった彼の同僚らしき女性はあっさりと電話を切ってしまった。ツーツー、と無情な音が聞こえ出した電話を放って、アレッシオは無言で手元にある枕に顔を埋める。
「あ゛ぁぁーー、めんどくせぇ……」
頭の片隅でこれから忙しくなりそうだとぼんやり考えながら、アレッシオは盛大な溜息を吐き出した。
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