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①聡side

散々だ。 目覚まし時計は壊れ 気に入っていたコップは落として割り 電車は目の前で逃し 乗った電車では痴漢に遇い 弁当は偏り 冷食はチンし忘れてて 上司には叱られ(割りといつも) 彼女には振られ… なんなんだ 俺が何をしたって言うんだ。 どこかのバーで美人なマスターに愚痴を聞いてもらって慰められるなんて、やってみたい。 「今日、どうする?」 「いつものバーでいいんじゃね?」 バー? おい、そこの若者たち、バーと言ったか? 俺はこそっとついていってみた。 ――――― 着いたバーはとてもおしゃれなところだった。 カランカラン 「いらっしゃい」 俺の想像したような美人(男)のマスターが本当にいた。 俺は少し会釈をして、カウンターの端っこに座った。 「はじめましててすね。何にしますか?」 「ぁ、えと……。俺、詳しくなくて…」 「わかりました。僕とお話ししましょう」 「え?」 「今日のお客様の気持ちに合わせたものをお出ししますよ」 「今日は――」 そのまま俺は、ペラペラと今日あったことについて喋った。 カイピロスカというカクテルを作ってもらった。 明日への期待、という意味らしくライムの味が凄い。 ライムライムしてる。 すっごい美味しくて、もう何杯目かわからない。 なんか、おとこのひとばっかりだなぁ… 「お兄さん、飲みすぎじゃない?」 とても聞き心地のいい低い声で、そう言われた。

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