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旅-tabi-6
さっきよりもより濃い、香ばしく挽いたコーヒー豆の匂いが鼻に通る。
薫りに包まれている様な温かさがあり、店主の優しさが滲み出るようなじんわりと心地よい店内を進んでいく。
「樹矢さん、ここ座ってください。」
樹矢が座ったのは窓側の少し薄暗いソファ席。
「光、差してないけどいいの?」
座りながら確認するように俺に問う。
「大丈夫。」
はーい。と俺の指示に従ってストンと座る。
カメラのレンズを覗き、構図を決めてから後ろを振り返って、カウンターキッチンに立っている店主へ声を掛ける。
「宮下さん、ホットコーヒーお願いします。ブラックで。」
「かしこまりました。」
注文されるのを待っていたかのように、沸かしていたポットのお湯をコーヒーフィルターの中に注ぎ込む。
静かな、けど空気は重たくなく穏やかな時間がゆっくりと流れていく。
外とは切り離されたようなこの空間が俺達を落ち着かせ、優しい笑顔にさせる。
「お待たせ致しました。ブレンドコーヒーでございます。」
樹矢の前にスッとコーヒーが差し出される。
湯気がふわふわと立って、彼の顔を少し曇らせる。
カシャ。カシャ。
無言でシャッターを切って撮影を始めると、樹矢も撮影モードにスイッチが切り替わる。
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