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旅-tabi-7
コーヒーを飲む姿の彼を撮るのでは無く、お店全体を撮る事で樹矢が景色の中に溶け込んでいるような写真を撮っていく。
彼の存在感を出来るだけ無くす為には、こういった雑貨や飾りの多い店が理想的だった。光が当たらず、でもそこにいるのは樹矢だ。
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「OKです。」
色々なシュチュエーションで撮影をして、納得した頃には、夕方を過ぎようとしていた。
「もうこんな時間…。宮下さん、長々とすみません…。」
「いえいえ、良い作品の手助けが出来たなら嬉しいですよ。」
本当に良い人だなぁ…。
朗らかな笑顔を向ける宮下さんへお辞儀をする。
「また、今度来ますね!コーヒーも美味しくてすっごく素敵なお店で気に入っちゃいました!」
元気な笑顔で樹矢は言う。
「いつでも、歓迎していますよ。瀬羅樹矢さん、須藤朱斗さん。」
「ありがとうございます!」
次の撮影の為に移動しないと行けなくなり、俺達は身支度を済ませ直ぐにお店を出た。
そういえば…。俺。宮下さんに自分の下の名前言ったっけ…?
ふとした疑問が頭に浮かんだが、まぁいいか。とモヤモヤする事無く、直ぐに消し去った。
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カランとお店の扉が閉まると、2階に繋がる階段から足音が近付いてくる。
「兄さん達、帰ったの?」
「ええ。いまさっき帰りましたよ。」
彼は、宮下さんに抱きつく。
「じゃあ、これからは僕達の時間だね?」
「そうですね。葵斗 …。」
夕日が窓から漏れる中、彼らは優しく抱き締めあった。
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