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光芒-koubou-1
移動してると段々と陽が落ちてきて薄暗い道が続く。
「しーゆちゃーん。お腹空いたよぉー。」
樹矢がお腹を抱えて訴える。
朝に旅館のバイキングを食べて以来、固形物を口にしていないことに気づいた。
「あ、この近くに食べてみたい所あるんですよ。行きましょう。」
俺は樹矢の手を引っ張って早足で目的地へと向かう。
「しゆちゃん、この辺詳しいの?色々お店知ってたり、土地勘もあるみたいだし…。」
俺の行動に疑問に思う樹矢は頭にハテナを浮かばせている。
「前に…。弟と来た事があるんだ。」
「弟って…確か、葵斗くんだよね?」
一度だけ、樹矢は葵斗に会った事がある。
その時の話はまた追々…。
「そう。まだ学生の頃に俺が写真をここに撮りに一人で行くって言うと、付いてきたんだ。」
俺にベッタリだった葵斗。
年子だからか兄弟というより友達に近い存在だったのかもと、今になってあの頃の俺らを振り返ると思う。
「俺はここに来るのはその時以来なんだけど、葵斗は今、この近くに住んでいるみたいなんだよ。」
「そうなの!じゃあ、さっきのお店も葵斗くんが?」
「うん。今度撮影しに行くって電話で話してたら、いいお店があるよって紹介してくれたのが、さっきの宮下さんのとこ。」
アポも取ってくれて、話もスムーズに進んだ為とても助かった。
「さ、この先だから行こう。」
お店に着く頃には空は真っ黒で、点々と眩い星が光っていた。
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