89 / 227

光芒-koubou-1

移動してると段々と陽が落ちてきて薄暗い道が続く。 「しーゆちゃーん。お腹空いたよぉー。」 樹矢がお腹を抱えて訴える。 朝に旅館のバイキングを食べて以来、固形物を口にしていないことに気づいた。 「あ、この近くに食べてみたい所あるんですよ。行きましょう。」 俺は樹矢の手を引っ張って早足で目的地へと向かう。 「しゆちゃん、この辺詳しいの?色々お店知ってたり、土地勘もあるみたいだし…。」 俺の行動に疑問に思う樹矢は頭にハテナを浮かばせている。 「前に…。弟と来た事があるんだ。」 「弟って…確か、葵斗くんだよね?」 一度だけ、樹矢は葵斗に会った事がある。 その時の話はまた追々…。 「そう。まだ学生の頃に俺が写真をここに撮りに一人で行くって言うと、付いてきたんだ。」 俺にベッタリだった葵斗。 年子だからか兄弟というより友達に近い存在だったのかもと、今になってあの頃の俺らを振り返ると思う。 「俺はここに来るのはその時以来なんだけど、葵斗は今、この近くに住んでいるみたいなんだよ。」 「そうなの!じゃあ、さっきのお店も葵斗くんが?」 「うん。今度撮影しに行くって電話で話してたら、いいお店があるよって紹介してくれたのが、さっきの宮下さんのとこ。」 アポも取ってくれて、話もスムーズに進んだ為とても助かった。 「さ、この先だから行こう。」 お店に着く頃には空は真っ黒で、点々と眩い星が光っていた。

ともだちにシェアしよう!