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郷愁-nostalgia-5

 「イっ……く!」と余裕無く振り絞った言葉と同時にガンと腰を打ちつければ、一度放ったのにまだまだ濃厚な自身の欲がドクドクと出ているのが分かった。  朱ちゃんも突かれた反動で良い所に当たったのだろう、俺の腹部に温かい白濁液をベットリと吐き出していた。 「……っはぁ……はぁ……」  もうどちらの吐息か分からない。顔を近づけると鼓膜には乱れた息遣いと肩を動かして呼吸をする動き、心臓のバクバクとビートを打つ音が響いている。 「朱……愛してるよ」  もう何度目なのか数え切れない思いを音にして伝える。形には出来ない代わりに伝え続けたいと思うのは、何時か愛していない日が来るんじゃないかという不安を揉み消すためなのかも知れない。とふと感じる。 「俺も。樹矢を愛してる」  自分よりも小さな恋人の身体は、大きな愛情で俺を丸ごと包み込む。そこから抜け出す事も拒む事もせず、ただただ包まれる。 『心の器は一人一人違うからね』  何時か、そんな事を俺を小さな腕で包みながら話してくれた事があった。  愛情を教えてくれたのは、確実に朱ちゃんだった。けれど、知らなかっただけで俺は愛情(それ)にかつて触れていたんだ。  母親からの愛情に。我が子の笑顔を愛おしいと思うその気持ちが、きっとそれだったんだと今、教わった。 「朱ちゃん……今度、俺の母親に会いに行かない?」 「樹矢の……母親?」 「そう、今病院にいるらしいんだ」  家族との過去の話は、朱ちゃんに少しした事がある。少しなのには訳があって、それ位しか話す内容が無かったからだ。  詮索する事も無く「ふーん」と俺が居ればいいというアッサリした朱ちゃんには助かった。本心では知りたいけど、止めておこうと気を遣ってくれていたと思う。 「なんで、急に?」 「んー。お嫁さんは紹介しないとって思って?」  朱ちゃんの左薬指に輝く指輪にチュッとキスする。 「そう。いいよ」  頭を撫でてくれるその手が優しすぎるくらい優しくて、さっき泣いた事に対しても何も聞いてこない朱ちゃんの優しさに目頭が少し熱を帯びた。 (何時からこんな泣き虫になったんだろ……)  朱ちゃんに出会う前は人前で泣いた事なんて無かったのに。 「そういえばさ、樹矢のそのネックレスって……」 「ん?」  「これの事?」とシルバーの細いチェーンに引っ掛けられている物を手に取る。  見覚えのあるキラリと光るそれは、朱ちゃんにプレゼントした指輪と同じデザインの物だった。 「お揃いだね」 「お…おぅ……」  可愛く、照れ臭そうに口を少し尖らせて返事をしてくれる。 「朱ちゃんのもネックレスに出来るからね」  「後でチェーン渡すよ」と言うと首を横に振り断られた。  驚きで目がまん丸になる。再び泣きかけていた涙腺はピタリと冷めてしまい、朱ちゃんに理由を聞く。 「え?なんで……?」 「あんたは指輪なんか嵌めてたら大スクープだけども、俺はいいだろ。いい年した成人男性だし、ただのカメラマンだ」 『ずっと嵌めておきたい』  お得意の言葉に出さない本心が見え見えの恋人が、俺は好きで好きで堪らない。口元に手を持っていき、広角のニヤけを隠す。 「そっか」  押し潰したくなる位力強く抱き締めて、俺達はまた互いを求め合った。 ――― ―― ―

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