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淘汰-touta-1
連日忙しかった撮影が終わり、午後は半休休みを貰って少しウキウキしていた朝、先に目覚めてご飯を作っている朱ちゃんの元へ行けば、「あ、俺撮影ロケあるから遅いよ」とあっさりデートのお誘いを断られた。
「えー!聞いてないー!」
一応駄々を捏ねてみたら、味噌を溶かす手がピタリと止まり菜箸で俺を指して一言。
「俺はちゃんと言いました」
何も返せなくなり、しょんぼりとリビングのソファに腰掛ける。
何気無く携帯を開いてネットニュースに目を移すと、自殺した人数が過去最多という記事に指と目が止まる。
「自殺……ね」
直ぐに画面を切り替えて、電話帳を開き求める人物の名前を探し出して、迷い無く通話ボタンをタップした。
「………はい、尾野です」
コールが数回なった後に繋がった相手の声が鼓膜に響く。
「おはよ。あのさ、こないだの事だけど……」
電話の会話を朱ちゃんは所々聞いていた。目の前のテーブルに出来たての美味しそうな朝食を並べてくれている間、俺は颯との電話を続けた。
母親と面会出来る日程をまた連絡するという結論で通話は切れた。
「終わった?」
特に詮索する事も無く、電話を手放したタイミングで俺が座る隣の位置に座り顔を覗き込み聞いてくる。
「うん。終わった」
その返事にニッコリと笑うと「食べよっか」と手を合わせて二人で声を揃えていただきますをし、箸を手に食べ始めた。
朱ちゃんが作ったほんのり甘い卵焼きは、お袋の味を知らない冷えた俺の心を幸福に満たしていった。
「樹矢。最近忙しそうだね」
「んー……そうだねー。雑誌の撮影と季節の変わり目前で新作のカタログ撮影が被ってるのもあるけど、今度作るブランドの打ち合わせが特に、ね」
「あー、成田さんに撮影頼まれたやつだ」
「そうそう。樹矢さんが新しくチャレンジする事に須藤さんの写真は必要です!って説得されちゃった」
その時の成田さんの必死さを思い出すと笑ってしまう。
「俺もそれ言われたよ。是非お願いします!って断る訳無いのに必死で笑っちゃった」
おそらく同じ表情の成田さんを思い浮かべて、朱ちゃんと顔を合わせれば、ぷっと笑う。
自分でアパレルブランドを作りたいとはここ最近思っていた。モデルの仕事をし始めて日々シーズンごとに沢山の服に出会う機会がある中で、自分の求めている型やデザイン、素材を一から組み立ててみたいと思うようになっていた。
まだ制作段階で、次のシーズンまでには発表出来るように少しずつ進めている途中だ。
「楽しみだなぁ。樹矢が作るブランド」
「期待に応えられるように頑張るよ。大好きな朱ちゃんを思って!」
「いや、そこはファンを思いなさいよ」
「へへへ。……ペアルック、しようね?」
「家でだけな。外は無理」
冷たく言い放つ言葉だけど、「家ではいいんだ」と小さく呟けば耳を赤く染めていた。
ブカブカのパーカーから見えた白い首筋が美味しそうで、顔を近づけて口づけする。それは痕を残して、俺の視界にまた見えた。
「っ……!お、おい!朝から盛んなおバカ!」
「痕、付けちゃった!」
そう言い捨てて、逃げるように仕事へ行く準備をする為リビングから離れた。
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