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第4話
とうとう婚姻の儀。
何から何までフレヤの家に頼りきりで申し訳なく思ったが、義父は寛大だった。
聞けば商会を切り盛りしているのは実はフレヤとフレヤの母親で義父は妻の指示に従っているだけだと言う。義父はとても穏やかな人だった。
「トーレ様。わたくしには…… 正直、フレヤの好みは理解できかねますが息子の幸せを願っております。どうか、愛想を尽かさずにいてやって下さい」
「愛想を尽かすなど。フレヤはあの容姿も素晴らしいが頭が良く、しっかりとした考えを持ち、くるくる変わる表情に何度でも魅了される」
フレヤはただ美しいだけではない。
強く、生き生きとしているからこそ眩しいのだ。
母親はフレヤによく似た美しい笑顔で頷いた。
婚姻の儀は緊張であまり覚えていない。ただ羨望と嫉妬の眼差しはひしひしと感じていた。フレヤに相応しくあるよう、努めよう。
「トーレ、おめでとう! 羨ましいぜ!」
「ありがとう、ダン」
「ダン様、トーレ様にあまり構わないでいただけますか?」
「フレヤちゃん……」
「フレヤ、俺には唯一の友人なんだ。許してくれないか?」
「旦那様にはこれから新しい友人ができるはずです」
「そうだろうか」
「……真面目になるなら旦那様とのお付き合いを考えない事もない、と言っておきましょう」
「フレヤ、ありがとう」
「フレヤちゃん……怒った顔も可愛い〜!」
故意か偶然かとぼけたダンに諦めのため息をこぼすフレヤ。だが…… 確かに怒った顔も美しい。客達はフレヤを見ては尾を揺らし、俺を見ては顔をしかめる。覚えているのはこれくらいだ。
披露宴が終わり、新しくなった家に帰る。
今日からは俺とフレヤの2人暮らしだ。だが通いの使用人は雇うことにした。
フレヤは実家の店で働き、賃金を得ている。おかげで収入には余裕があり、時間の余裕がない。ならば使用人を雇う事に否やはない。
婚礼衣装は構造が全く理解できないので先に脱いでもらった。
初夜……
あの日見た白く滑らかな尻を思い出すたびに毛皮の鞘から顔を出す自身の陰茎に呆れたが、今夜はそれで良いのだな。
逸る気持ちのままに手早く身を清めて寝室へ行くと、顔を出したばかりの満月の光が差し込むベッドの上に清楚で可憐な花が凛とした風情で佇んでいた。
いや、座っているのだから佇むとは言わないのか?
「旦那さま、不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします」
「すっ、すまない! 俺の方から声をかけるべきなのに見とれてしまって……」
「ご挨拶に順序などありません」
「そ、そうか。それにしてもフレヤほど完璧な人が不束者だなどと、決まり文句とは言え否定したくなるな」
「完璧な者などおりません」
「そうだろうか? フレヤは麗しの『ニンゲンの妖精』そのものだ」
「外見だけです。中身は小賢しくて口うるさい悪妻かも知れません」
「賢くてしっかり者の良妻だ。貴方が愛しい」
「旦那さま! ぼくを……愛しいと……想って下さいますか?」
「今まで感じた事のない感情だが、これが愛しさだと思う。貴方の隣にずっと居たい。貴方に話しかける者たちの尾が揺れていると忌々しくてしかたがなかった。私も貴方を見ると尾が揺れると言うのに」
ぱたぱたぱたぱた……
バサバサバサバサ……
互いに尾を揺らしながらしばらく抱き合ってから詳しい事を何も知らないおれにフレヤが手解きをしてくれた。閨教育、と言うものがあったらしい。
「トーレ様、こちらをここに入れて精を注ぎ込めば子ができます。ですが準備をせずに入れるとどちらも苦しいのでこの香油を塗り込めて滑りを良くします。お分かりですか?」
「聞いた事はあるが見るのは初めてだ。そしてこの匂い……」
フレヤの尻に軟膏を塗った時にも感じた発情フェロモンが、フレヤの脚の間から香る。
「いやぁぁぁっ!」
思わずそこへ鼻面を突っ込めばフレヤの悲鳴。いや、なのか……?
「むり……恥ず……ひぐっ、ふえぇぇぇん!」
「フレヤ、嫌か? 俺が?」
「だってこんな…… こんな所見せるのも、ホントはすごく恥ずかしいのに…… 顔…… 匂い…… やだぁ……!」
「すまん! 無理をさせていたんだな。俺が不甲斐ないばかりに……」
俺のために冷静を装ってあらぬ所を晒していたが、フレヤだとて初めてなのだ。
先を急がず、しばらく抱きしめてなだめる。発情フェロモン以外のフレヤ自身の心地良い香りにも興奮してしまうのだが……気合いで抑えつける。
柔らかな髪を手櫛で梳いていると落ち着きを取り戻したようだ。
「……も、う、大丈夫です。取り乱して申し訳ありません」
「俺が不甲斐ないからとフレヤが無理をする必要はない。俺は人との関わり方を知らない。だから嫌な事は嫌だと、して欲しい事はして欲しいと教えてくれ」
「はい。……あの、トーレ様の、が……欲しい……です」
「ありがとう。ここを香油で解すのだったな」
式の前に切られた中指の爪はこのためだったのか。受け取った香油を中指にまぶし、2つの丘の間の谷をなぞり、目的地を探した。そしてそこに辿り着くと何度か繰り返し香油を塗った。
「ここに……本当に入るのか?」
「入るようにできている、はず……あっ!」
様子を探ると窄まりに指先がつぷりと入り込む。粘膜の感触を感じながら浅く抜き差しすれば徐々にフレヤの緊張が解けていった。
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