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始まりました。
『これより、体育祭りを始めます!!皆さん、怪我のないよう楽しんでくださいね』
校長の挨拶で、生徒達から歓声が上がる。
いつもと違う空気感に生徒達だけでなく教師も浮き足立っているのが伝わってくる。
眩しいくらいの青空のもと、体育祭りが始まった。
「優羽!こんな所にいた!ねぇ、田中見なかった?」
凛に声をかけられた俺は、クラスの待機場所のテントの下で田中と喋っていた。
「あ!田中いるし!!」
驚きながら田中を指さして、凛が笑う。
「やめろ。人を指さすな」
指された指を掴んで、田中が怖い顔して凛を睨む。全く迫力は無いけど。
「おい、田中。凛に触るんじゃねーよ」
にょっきりと凛の後ろから現れた山根が凛の指を掴んでいる田中の手を握りしめる。
「いててっ。山根、お前はキチンと浜口に教えなければいけないぞ!人を指さしてはいけないと!」
「へーい」
「返事は短く『はい』だ!で?何の用だ?浜口」
「あ、そうそう。クラス委員集まってって吉田先生からの伝言」
「ん。わかった。それじゃあ、矢作。いいな?怪我していようがお前は大切な戦力だからな!」
力強くそう口にすると田中は歩きだし行ってしまった。
「すげー気合い入ってるな、田中」
「うん。俺の足の怪我の事すごい気にしてくれてるんだよね」
「玉入れなのに?」
「うん。俺、その場で投げまくってって。田中が玉集めてくれるらしいよ」
「すげー作戦だな」
怪我はしているけど、動けないほどでは無いからと田中に言っても聞き入れてもらえず。
「田中の期待に応えてやれ」
「笑ってんじゃないよ」
「だって、おもしれぇもん」
思っていたよりも和やかに時間は過ぎていく。
胸はもやもやがいっぱいだけど、笑えてる。なんとか、笑っている。
でも、離れていてもいつも目で追ってしまう。
顔を上げた先には学年の違う彼が友達と楽しそうに笑っている。隣には太田君がいて...いつもそこにいた彼女の姿がないことにほっとする自分もいる。
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