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人気があるんですね。

「ってか、足、怪我してんの?」 「ん?あぁ、ちょっとね」 庇うように歩いていたので気づいたのだろう。足を指さしながら圭人が聞いてきた。 「明日の体育祭り出れるの?」 「うん。俺、玉入れだし。その場で動かずに投げろって田中に言われてる」 「田中って優羽のとこのクラス委員だろ?この前練習たまたま見たけど、やる気すげーな」 「うん。面白いよ、田中」 肩の力が抜けて、圭人と喋れているのが不思議だ。 圭人は新しく買ったコーヒーを飲んでいる。俺もおしるこには手をつけず、ミルクティーを買って飲んだ。 何故かその場所を離れることも出来ず、少し話をしたらお互いが急に静かになる。 「...まぁ、無理すんなよ」 大きな手が伸びてきて、またくしゃっと乱暴に頭を撫でられる。 「俺が言うのもなんだけどさ」 眉毛下げて笑う圭人は情けない表情のはずなのにどこかスッキリして見える。今まで感じてたどことなく構えていたような雰囲気が無くて自然体だ。 「...った」 くしゃくしゃ撫でられて、次の瞬間何故かがっと頭を掴まれた。ボールみたいに。 「ふは。頭小さいし」 「い、痛いっ。え?何?」 「んー...何でもなーい」 パッと手を離され、また頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。 「ちょ、やめろ」 「ふはははは」 手を振り払っても、自分の髪の毛がボサボサになったのが分かる。特にセットしている訳では無いからいいんだけど。 「さーってと。じゃ、俺そろそろ行くわ」 ちゃんと飲めよ、おしるこ!と念を押して圭人は歩き出した。 その後ろ姿を見て、自分の手元のおしるのこ缶を見る。飲む気は無いけど、ああいう風に渡してきたのは彼なりの優しさなのかなとも思う。素直じゃない彼らしい。 「はは。おしるこって誰が飲んでんの」 夏には冷たく、冬には温かいおしるこの缶の謎人気は別にして。 力なく笑って、これは山根へのお土産にしようと決めた。

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