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おしるこの缶です。

あなたを、大切にしたい。 笑顔を守りたい。 ...でも、自分に自信が無いんです。 少しだけ、時間を下さい。 そう言って、松木君はあの日帰っていった。 俺は呼び止める事ができなくて。小さくなっていく松木君の背中をずっと見ていた。 俯いていた顔を上げると隙あらば第二弾の卵焼きを食べさせようと凛がチラチラこっちを見てくるので気まずくて席を立つ。 「の、飲み物買ってくるね」 「え?あ、うん」 「オレンジ飲みたい」 「...」 山根は無視して自販機目指して歩く。 あからさま過ぎたと思うけど、ごめんね、凛。 「お。優羽じゃん」 自販機に向かう途中、圭人に声をかけられる。 余り会うこともないのに、なんでこういう時には会うんだろう。 「飲み物買いに行くの?」 「...うん」 歩いてると、さり気なく隣を歩いてくる。 隣を歩くだけでもドキドキしたのに、今は通常運転の自分の心臓が不思議だった。終わった恋なんだと。 「...圭人も飲み物買うの?」 話しかけるのも、普通だ。 「ん?んー、そうそう」 そう言えば、話すのもあの屋上以来だ。 「元気してる?」 「...うん」 「ぶはっ。」 急に圭人が吹き出して笑うもんだから何事かと顔を上げて圭人を見上げた。 「どこが元気なんだよ。ここ。シワすごい」 ピン、と人差し指で眉間をつつかれる。 「...」 無言でつつかれた眉間を指でなぞる。 圭人はまだ笑っている。 「考え事してただけ」 「何?明日の体育祭り?玉入れだけなんだろ?」 「...そうだけど」 それだけじゃないし。いくら運動が苦手でも、祭り自体は楽しみだし。 「だりーよな。暑いし」 自販機のボタンを押すと、ガコッと落ちる音がして飲み物を取り出し口から取り出す圭人の後ろ姿をぼーっと見ていた。 「...げっ!」 泣きそうな、なんとも言えない表情で振り返る圭人の手には何故か年中ある『おしるこ』の缶が握られている。 「...ははっ」 「や、笑うなって」 思わず、笑ってしまった俺に釣られるように圭人も笑い出した。 「あー、やばい。俺、こんなん飲めないし。ほら」 ポンッと缶を投げ渡され、思わず受け取ってしまった。 「え?」 「あげる」 「や、要らない」 「俺も。まぁ、これ飲んで明日の玉入れ頑張れよ」 にっこり笑う圭人は新しくコーヒーを買い直している。 「ちょ、」 「甘いもん飲むとその眉間のシワも取れる」 変に断言して、圭人は再び眉間をピンっと指でつついた。

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