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強がりです。

ごめんなさい。 ごめんなさい。 ...離れていかないで。 「優羽。これ、美味しいから食べて」 目の前には美味しそうな唐揚げ。 いつもならすぐ飛びつくのに、目の前をふよふよ浮いている茶色の物体に今は何の魅力も感じない。でも、いい匂い。 「ん。お腹空いてないからいい」 半分以上残した弁当と作ってくれた母親に対しての罪悪感に蓋をして、それをカバンにしまった。 「あ?なら、俺が食うぞ」 「ダメ!謙ちゃんのはちゃんとあるでしょ?あたしは優羽にあげたいの!」 「だって、優羽要らねーって言ってんじゃん」 「...でも、ダメ」 凛は泣きそうな顔をして、まだ唐揚げを俺に向かって差し出している。 山根が大袈裟なため息をついて、頭をガシガシかいた。 「あのな、優羽。これは凛が早起きして作った唐揚げだ。すげぇ、美味い」 「うん。凛、料理上手だもんね」 「そうだ。だからよく味わって食え」 山根は半ば無理やり凛から唐揚げを奪うと有無を言わさず俺の口に詰め込んだ。 「んぐっ」 「ちょ、謙ちゃん!?」 口に入れられたのなら、食べないわけにはいかない。反射的にもぐもぐ口を動かすと優しい味と肉汁が口いっぱい広がった。 「おいひい」 「おう。知ってる」 ニカッと笑った山根は何事もなかったように自分の弁当を食べ始めた。凛がうるうるした瞳でこっちを見ているから、よく噛んで飲み込んでからお礼を言う。 「凛、ありがとう。美味しい」 「...でしょ?」 少し泣き笑いな凛。 隣では何事も無かったように自分の弁当を食べる山根。 騒がしい教室。 見慣れた場所なのに、ここでお弁当を食べるのにひどく違和感を覚える。 松木君と一緒に弁当を食べなくなって数日。 明日は、体育祭だ。

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