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謝らないで。
「...どうしたんですか?それ」
昨日は早めに学校に行くからと、昼間にしか会っていない。夜のラインも気持ちが落ち着かなくていつもよりやり取りは続かなかった。
松木君は俺の足に巻かれた大げさな包帯に目を見開いた。
「あ、うん。ちょっと転んじゃって」
へらっと笑う俺に、松木君は珍しく眉間にシワを寄せたかと思うと俺の手首を強く掴み歩き出した。
「ま、松木君?」
いきなりの行動に、足の痛みも一瞬忘れてしまう。
何も言わない大きな背中が、近いのに遠く感じた。いつもは俺の嫌がる事を絶対にしないのに、痛がる手を引いたまま彼は歩き続ける。
着いたのは、第2音楽室。
いつもの音楽室なのに、2人の雰囲気がいつもと違うせいで全く違う教室のようだ。
「...先輩」
手を掴まれたまま、動きの止まった松木君は低い声で俺を呼んだ。
「...俺、頼りないですか?」
「え?」
突然の松木君のセリフに俺はうまく返事ができなかった。
「...昨日、千聖が家に来ました」
「...え?」
「萌乃と一緒に」
「...っ!!」
ぐっと俺の手首を掴む力が強くなる。
顔を上げると泣きそうな表情の松木君が視界に入った。
「あ、あの!松木君が頼りないからとかじゃなくて、俺が...その、」
「...」
ふ、と松木君に掴まれていた手が離され、自分の手が力なく下がる。感じていた温もりが一気に無くなって、冷たい。
「手紙のこと、聞きました」
「...っ」
「...だから最近、元気無かったんですね」
悲しそうに、松木君は笑った。
違う。そんな表情させるために黙っていたんじゃない。
「すみませんでした」
松木君は深々と俺に向かって頭を下げた。
「え...?」
「何も気づかなくて。先輩が傷ついてるのに、俺ー」
頭を下げる松木君に近づいて、両腕を掴んだ。
「違う!松木君は何も悪くない!俺がっ!...俺が勝手に、」
「先輩」
掴んでいたのは俺のはずなのに、気づくと松木君の腕の中にいた。松木君の匂いが濃くなる。
「大好きです」
強く、抱きしめられて。
「先輩の事、大好きです。...だから、先輩を傷付けた萌乃の事、許せない。昨日千聖がいなかったら俺、萌乃の事殴ってました」
知らなかった松木君の熱い熱い感情をぶつけられた。松木君の熱い想いが抱きしめる手から伝わってくる。
「俺、あなたに笑っていてほしいってずっと思っていました」
「松木君...?」
「...すみません、先輩」
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