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山根には素直に。

「優羽」 どのくらい蹲っていたのか、聞き慣れた安心する声に顔を上げると山根が立っていた。 「そこで、太田君に会った」 何事も無かったように、山根は俺の腕を掴んで立ち上がらせてくれるが、右足が床に着いた途端痛みが襲ってくる。 「...っ!!」 「立てない?」 「...ん、ちょっと」 「そうか。...ほれ」 俺に背中を向け、少し屈む山根。 「え?」 「ほれ」 「えっ?」 山根のおんぶスタイルに戸惑う俺に、山根は無言で「乗れ」とアピールしてくる。無言の圧力がすごくて、仕方ないので、身を預けた。 「うわ。軽すぎ」 「うるさい」 「え?乗ってる?」 「乗ってる!」 「成長止まってるの?」 「絶賛成長中」 「あはは。遅いね」 「うるさい」 軽口叩きながらも、山根は気遣うようにゆっくりと歩き出し、取り敢えず保健室に向かう事にした。足はジンジンして痛いけど、おぶってくれる山根のおかげで負担が掛からないのは助かった。広い背中に同性としてちょっと嫉妬するけど。 放課後で人気も無いから、おんぶされてても目立たなくて、恥ずかしくもなくて俺と山根はくだらない話をしていた。 「優羽!謙ちゃん!」 バタバタと足音と共に凛が近づいてくる。両手に俺と山根のカバンを持って。 「あー。カバン。ありがとう、凛」 「んん。いいよいいよ。...大丈夫?足」 「ん。大丈夫。ってか、山根号のおかげで楽チンだよ」 「おい。ロボット扱いヤメロ」 「いいでしょ?謙ちゃん号。安定感抜群なのよ」 「凛まで」 「今日は特別、優羽に貸してあげる」 「...ん。ありがとう」 保健室に着き、手当をしてもらったけどキチンと病院に行け、と言われた俺は山根のおんぶのまま、病院まで運ばれたのだった。 結果、捻挫で全治1週間という情けないものでした。

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