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痛みと逃げる彼女と。

「萌乃っ!!何やってんだ!!…先輩、大丈夫ですか?」 慌てて太田君が手を引いて立ち上がらせてくれるが、足を床に着けた瞬間、鋭い痛みが襲う。 「…つっ!!」 「足ですか?捻ったかな。立てますか?」 「あ、大丈夫大丈夫。ちょっとよろめいただけだし。今のも急に立ったから」 大丈夫アピールで立ち上がるけど、右足首がズキズキしてきて痛い。女の子に押されたからって、軟弱な自分に呆れてしまう。 「掴まって下さい」 「大丈夫だよ。ありがとう」 制服についた埃を払い、顔を上げると真っ青になった武藤萌乃ちゃんと目が合った。そのまま彼女は教室から逃げるように去っていく。 「あ、おい!萌乃!!」 「お?なんだ?...お~い、すごい音がしたけどどーしたー?」 張り詰めた空気の中、間延びした声がドアの向こうから聞こえた。顔を出したのはやる気がないので有名な生物教師だった。 「あ、石井ちゃん先生。あー、ごめんね、びっくりさせて。俺転んじゃってさ」 あははと笑うと、石井ちゃん先生は考えるように間を開けてからニヤリと笑った。目線は教室から出ていった武藤萌乃ちゃんの方へ向けられている。 「...なんだ。痴話喧嘩か?ガキのくせに生意気だな」 そして視線を元に戻して鼻で笑うとそう言った。 「あはは。大丈夫大丈夫」 「んー。なら、早く帰れ。そこの1年もな」 「うん。さよーなら、先生」 笑顔で石井ちゃん先生を見送ると、まだ呆然と立ち尽くす太田君に声をかけた。 「...ごめんね、太田君じゃなかったんだね。俺、勘違いして酷いこと言っちゃってほんとにごめんね」 「...いえ。俺の方こそ、こそこそしてすみません。結局、先輩に嫌な思いをさせてしまって。…萌乃を止められなかったし」 「ううん。...ありがとう」 頭がいっぱいなのと、ズキズキと痛みだす右足首で何も考えられない。気が抜けてしまったのか、一気に疲れてしまった。 「保健室、行きましょう?」 心配顔の太田君が近づいてくる。 「や、ほんと、大丈夫。それより、萌乃ちゃん追いかけて」 「...」 「俺は大丈夫だから」 ね?と、笑って太田君の背中を押す。 太田君は戸惑った表情で、何度も何度も俺に大丈夫かと確認して、教室から出ていった。 それを見送って、はぁ、と大きなため息と共に体中から力が抜けてその場に蹲った。 足が痛い。

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